Albemuth解散ライブ「罪と楽園」レポート 存流「届けてきた音楽は、心の中でずっと輝き続けます」

LINEで送る
Pocket

KAMITSUBAKI STUDIO傘下のSINSEKAI RECORD所属で2人組のバーチャルシンガーユニット「Albemuth」(アルベマス)は9日、東京新宿のZepp Shinjuku (Tokyo)にて1stワンマンライブ「罪と楽園」を開催した。

事前に告知していたように、初のワンマンにも関わらずこの日を持ってメンバーである存流(ARU)がアーティスト活動を終了し、Albemuthも解散。もう一人の明透(ASU)はソロ活動を続けていくという、「ポイント・オブ・ノー・リターン」な場だった。

そうした前提もあってか、オールスタンディングだった会場の客席にはぎゅう詰めになるぐらいにファンが集結。全員がアンコールも含めた全21曲に全力で打ち込み、最後になる2人でのMCに涙して、最後に「ありがとう」と大絶叫してライブを完全燃焼した。

明透(左)と存流(右)によるAlbemuth


筆者も会場で取材していたが、現地で感じたのは、終わりをつくりにくいバーチャルアーティストという体裁において、Albemuthという物語をこれ以上ないくらいにきれいに終わらせたということ。そして、現場やネット配信から伝わってくる「こんなにもみんなに愛されていたんだ」というファンの熱量だ。

もちろん全編が素晴らしかったのだが、筆者としては特にアンコールの「いのり」「饒舌な星」「舟」という3曲のハマり具合があまりにも鮮やかで、神椿ファンに限らず、音楽ファンにぜひアーカイブで体験しておいてほしいライブだと感じた。簡単にレポートしていこう(……と、簡単のつもりだったがうっかり8000字ぐらいになってしまった。それぐらいいいライブだったのだ)。


勢いづいていた最中の解散発表

VTuberといえば、2018年頃より大きく立ち上がってきた業界だ。その中において、KAMITSUBAKI STUDIOは2018年10月にデビューしたバーチャルシンガー・花譜(かふ)をきっかけに、THINKRが2019年10月に立ち上げたクリエイティブレーベルになる。

Albemuthが所属していたSINSEKAI STUDIOは、その「第二の矢」としてTHINKR、バンダイナムコアーツ、pulseの3社協業で2021年11月に立ち上げたレーベル(のちにSINSEKAI RECORDとしてKAMITSUBAKI STUDIOにブランド統合)。当初、存流と明透はソロでスタートしたが、2022年9月から2人によるトーク番組「あるあす通信」を始め、さらに11月にユニットとして活動することを発表する。

明けた2023年2月、存流・明透のツーマンでユニットと同名のオンラインライブ「Albemuth」実施し、ステージで共演する姿をお披露目した。2023年11月には、1stにしてアルバム「ADAM」と「eve」の2種類同時リリースを発表。今回にあたるAlbemuthとしての1stライブも告知し、12月24日のクリスマスには無料ストリーミングカバーライブ「Happy Merry Xmath」も実施した上で、同名のアルバムも出すなど、ユニットとしての活動を順調に加速させてきた。

2024年1月にも「神椿代々木決戦2024 IN 代々木第一体育館」のDAY 1にあたる「現象II -魔女拡成-」に2人でゲスト出演。コロナ禍明けで声出しライブが当たり前になり、ここからユニットでの活躍の場を増やしていくのかと思いきや、その月末に4月のライブで存流の活動終了、Albemuth解散という電撃発表があった。ソロデビューから2年半弱、ユニット発表から1年半弱というあまりの急展開に戸惑ったファンも多かったはずだ。

ユニットを冠しては初のワンマンなのに、ラストのライブ──。当日の東京は午前中が春の大嵐で、せっかく咲いた桜が散りまくるという、ファンの別れの悲しさをそのまま表したような天候だった。


対比の美しさに引き込まれた本編

そんな状況とは裏腹に、ライブの本編は波乱はなく、計算し尽くされたセットリストで終始Albemuthのよさを引き立てていた。

まず心を動かされたのは、二面性や対比の美しさだ。

声でいえば、ウィスパーで透明な存流、パワフルで気高い明透。

姿でいえば、小柄でガーリーな存流、スレンダーでボーイッシュな明透。

衣装でいえば、前半「eve」パートの清楚な白、後半「ADAM」パートの妖艶な黒。

構成で言えば、荘厳な「eve」パート、ダンサブルな「ADAM」パート。

光と影、陰と陽のような相反する存在にも関わらず、それが「音楽」というキーワードで自然と調和していくのが、現地で体験していてとても気持ちよかった。

 
ライブは、2人とAlbemuthのプランナーである素直さんが考えたというポエトリーからスタートした。

明透 始まりは、二つ

存流 正反対なもの

明透 違うもの

存流 世界の中に散りばめられている

明透 たくさんの美しいもの

存流 夜

明透 朝

存流 星

明透 空

存流 月

明透 太陽

二人 そして、あなた


暗転後に流れ出したのは、アルバム「eve」の1曲目である「幽ノ楽園」。イントロに合わせて、純白の衣装に身を包んだ2人が姿を現し「ハーァー」と美しくハモると、待ってましたとばかりに客席から大きな歓声が上がる。

そして青い照明の中、ピアノの旋律に乗せて歌声を重ねていく2人に向けてペンライトを振っていると、冒頭のポエトリーも相俟って、終わりの始まり、儚さがじんわりと感じられた。

2曲目「赤い洗礼」の前にもポエトリーが挟み込まれる。


存流 七日目の朝に私たちは目が覚めました

明透 始まりの庭ではすべてに歌がありました

存流 月にも、光にも

明透 水にも、風にも

存流 鳥にも、魚にも

明透 君にも

存流 あなたにも

明透 狂おしいほど命の歌がひしめく中で、ただ一つ

存流 私とあなただけが同じ音を奏でている

明透 君は私の音楽

存流 あなたは私の音楽

そして向き合う二人。

明透 正しく鼓動を始めた世界で

存流 二つの命はとけて、やがて丸くなる あなたとなら

明透 君となら

存流 赤い罪悪をはむことさえ

明透 厭わない

 
この後も「eve」パートでは4曲目「感光」、6曲目「白夜にて」のあとにそれぞれポエトリーが挟まり、ミュージカルのように進行していく。8曲目、「新世界へ」の最後では、のけぞる存流を明透が右手で支えながら二人が見つめ合うという演出も入り、尊みが天元突破したファンから「フォー!」という声が上がっていた。引き込まれすぎて息つく間もない、凝縮された「Albemuth劇場」を目にして、心が浄化されていったファンも多かったのではないだろうか。

 
そこから一転、赤と黒を基調としたムービーが始まり、次々と転換される場面に挟まって、怪しげなシルエットの二人が映し出される。「ADAM」パートの始まりだ。

第一声、アルバム1曲目「guilty」の親の声より聴き込んだ「ギルティー」のセクシーボイスが発せられると、客席から「待ってました!」の大歓声が上がる。まるでもう一回ライブが幕開けしたような盛り上がりだった。

ステージの雰囲気も一変し、明透が「Zepp Shinjukuー! ここからは皓を黑で染め上げていくよ! Are you Ready?」と煽りを入れると、全員が絶叫しながらペンライトを突き上げてステージに応える。

妖艶なぴっちり衣装で、手を振ったり飛び跳ねたりする二人。ダンサブルで縦ノリな音楽、赤い警告色で点滅して煽りまくる照明。あまりに犯罪的なカッコよさ、そして先ほどのじっくり聴かせる系な「eve」パートとの高低差に、「こ、これは……!? 今まで見ていた清楚は?」とクラクラしてしまう。彼女たちの表現の幅は本当に広い。

この勢いのまま四つ打ち&スクラッチの10曲目「HALF」、重いバンドサウンドの11曲目「Black Glow」と、「テンション絶対上げるマン」な楽曲が続いてから、ようやく初めてのMCが始まった。

「これまでもね、YouTubeとかARライブとか、配信とかでみんなと触れ合ってきたけど、今日は、会場で直でみんなとお会いすることができて、私も存流姉ぇもテンションが上がっています!イエーイ!」と喜ぶ明透に対して、「ADAM」パートの冒頭3曲で完全に「あったまった」観客は興奮してさらに大声を上げていた。

結局、このパートもMCは1度だけで、ほかはアルバム「ADAM」の全10曲に費やし、18曲目「cage」まで一気に駆け抜けていった。ほかの神椿のライブではゲストパートや「歌ってみた」カバーを設けることが多いところ、今回は一切なしという異例な構成だ。だからこそ、最後までAlbemuthをやり切って、自分たちの存在を音楽としてファンの心に刻みつけたいという強い意志も感じた。


「80億分の1、出会えて 別れ際、泣き笑って」

より完璧だったのが冒頭でも触れたアンコール3曲だ。みんなとのお別れから、新しい旅立ちまで、これ以上は考えられないぐらいにきれいにまとめられた20分だった。

本編ラストからステージ暗転後、2分半ほど続いた観客の大きな「アンコール!」の声に誘われて流れ出したイントロは、存流のソロ曲「いのり」。かつてツーマンライブ「Albemuth」の存流パートでラストを締め括った彼女を象徴するバラードだ。

彼女がアーティスト活動を終了するというこのステージにおいて、ソロでもきちんと花を持たせてくれる。そんな粋な計らい、「生で聴きたかったあの曲」が来たことに対する嬉しさと、ついにお別れしなければいけないという寂しさ。バーチャルタレントの卒業は、生身のタレントと異なり、二度と会えないことを意味する。客席からは、複雑な想いの「ウワァー!」という歓声が上がっていた。

「たった一人を映して
静かに息吐いて
特別を失う意味と対峙して
なれ果てた思いと
届かない声は
消えたいと鮮明にどこへ消えて
人生一度きりの喪失と
二度とつかめない世界と」


ギターのリフに乗せて、いつもの声で歌い上げられる歌詞。2番のあとにつぶやく「続きは見れない」の一言。随所に今の彼女を重ねてしまい、胸が締め付けられる。

ラスサビの演出も素晴らしかった。


「瞳に焼き付いてって
綺麗に輝いた
いつかは叶うと信じて生きてきた
安らかに散った届かなくて溶けた
たった一人を
たった一人を」


そう歌った後、存流が右隣を向いて右手をかざすと、光の粒子が巻き上がり、ギターの音に合わせて明透が姿を表す。

そして

「80億分の1、出会えて
別れ際、泣き笑って
偶然の可能性すら不可能になる」

と、最後は一緒に歌い上げる。今この場で、二人でそんな歌詞を口にするというんだというシチュエーションに、「わァ……」と胸がいっぱいになった。

 
この「いのり」の演出だけでもだいぶズルくてグッとくるのだが、続く「饒舌な星」でさらに心を揺さぶってくる。ツーマンライブ「Albemuth」のラストで歌った名曲で、「あのとき」を観測した衝撃が今でも心にも残っているというファンも多いはずだ。


「例えばこうして音楽が壊れても
あなたには笑ってほしいかな」(明透)

「おんなじことなんだよ、きっと」(存流)

「まばたきするたびに 遠く離れていく
永遠に種類があったら 140字以内で教えて」(明透)


ステージで立ち位置を入れ替えながら、存流が歌うときは明透に、明透が歌うときは存流に向けて手を差し出すのが、想いをぶつけ合っているようでとてもいい。

歌詞のシンクロ具合はもちろん、音楽も不思議で、スローなテンポやピアノからは前半・eveの荘厳さ、ベースやドラムからは後半・ADAMの激しさが感じられて、両者のエッセンスを融合したようにも捉えられた。まさに今日のこのライブ、この卒業のために準備してきたように錯覚してしまうほどで鳥肌が立った。

「饒舌な星」で筆者が一番好きなのは、ラスサビ前だ。


「例えばこの後、曲が壊れても
あなたは優しく生きてね」


と歌った後に、存流が明透の方を向き、「タララララン、タララララン……」と口ずさみながら両手で指揮をするシーン。うまく言い表せないのだが、崩壊する世界を前に、立ち去る側の人間が残る側に優しさを受け渡しているような、そんな美しさを感じた。


「完全な球になっても
もう一度だけ、遊んで欲しいな」


そう、今日の「罪と楽園」のeveパートのポエトリーで散りばめられてきた「音楽」「球」「いのり」といったキーワードは、すべてこのラストにつなぐための伏線だった。


「だれかのせいでも 曖昧なわけでもない
生活があるだけ
感情を振り解いて 完全な自由になったら
今度こそ言える気がしてる」


色々な文脈がこの1曲に吸い込まれていく。最後までステージの二人から目が離せなくて、ただ無言でペンライトを左右に振るしかなかった。


「さようなら」ではなく「いってきます」

続くMCでも、全員の感情が昂った。


存流 私が、存流としてステージにいられるのも、あと少しです。
ライブが終わったら、また、ただ歌うことが好きな普通の女の子に戻ります。
だけど音楽は私にとって人生だから。
このステージから去った後も違う形で続けていきたいし、みんなと明透ちゃんと過ごした日々、そして存流と、Albemuthとして届けてきた音楽は、心の中でずっと輝き続けます。

これからは存流ではない、新しい道を歩みます。
でも、その前に今、この瞬間、ここにいるすべてのみんなに、心からの感謝を伝えたい。
みんなの笑顔、涙、音楽と共にした様々な時間。
すべてが私の宝物です。
本当にありがとう。

 
深くお辞儀する2人に、客席や生放送のコメント欄から「ありがとうー!」の合唱が飛ぶ。

 
存流 一人にしてごめんね、でも私はこれからもずっと応援しているよ

明透 存流姉ぇが隣からいなくなるなんて、考えたこともなかったので、なんか想像もできないなって……

 
言葉を失い、顔を背けてうつむく明透の背中に、そっとよりそう存流。堪えきれずに啜り泣く声が客席のあちこちから聞こえるほど、多くの人の心を動かした。

 
存流 私がその場にいなくても、曲の中に私はいるし、今ここにいるみんながきっと明透ちゃんを支えてくれるから、明透ちゃんは一人じゃないよ。そうだよね?

即座に「そうだよー!」の声が上がる。

明透 二人で歌う日は今日が最後ですが、音楽は永遠です

存流 ありがとう、そしてさようなら。私を、Albemuthを愛してくれたみなさんに祈りを込めて

明透 これからの私たちとみんなの歩む道へ、希望を乗せて

存流 最後にこの歌を

二人 「舟」

この最後に「」を持ってくるのが、本当にズルい。歌詞を引用していると、冗談ではなくすべて書くことになってしまうぐらいにハマっていて、様々な感情で心がぐちゃぐちゃになった人も多かったはずだ。

筆者も現地で聴いていたが、心に浮かび上がったのは、アニメ最終回、Cパートで流れる劇中歌だった。何かを成し遂げて、それぞれの立場に戻って、それぞれが日常を精一杯いきていくようなポジティブさに似た何か。最後の最後を「さようなら」ではなく、「いってきます」で締める。なんて素敵な卒業ライブだろう。


「窓辺の一葉は いつしか発った
世界にひとりでも 帰れなくていい
ただ目を閉じれば ここにいる」


アウトロの間、向かい合って、お互いに差し出した両手を繋いだまま、静かに回る二人。あまりに美しい光景だ。

そして曲の終わりに合わせて手を離し、覚悟を決めたように背を向ける。

肩で涙を拭う、明透。

胸に手を当てる、存流。

そのまま暗転して存流、Albemuthの活動は幕を閉じた。

 
ライブ構成に装飾を盛り込まず、1stアルバム2枚20曲をすべて歌い切ってきれいに終わった「罪と楽園」。彼女たちが「ここにいた」こと、そしてAlbemuthのチームが生んだ音楽は、きっとこの場にいた全員の心に刻み込まれただろう。エンドロールの間ずっと拍手が鳴り止まず、その後の告知が終わって照明が上がった際にも客席から「ありがとう!」の大合唱が起こっていたのが何よりの証拠だった。

この感動は文章だけでは絶対に伝わらないので、ぜひアーカイブをじっくりみてほしい。4月23日には、明透との同時視聴会を予定しているので、神椿ファンならぜひ参加しておこう。


●セットリスト
M1. 幽ノ楽園
M2. 赤い洗礼
M3. 清々するんだ
M4. 感光
M5. 星月夜の調べ
M6. 白夜にて
M7. 箱庭
M8. 新世界へ
M9. guilty
M10. HALF
M11. Black Glow
M12. tuberose
M13. Do You Wanna Die ?
M14. Laziness
M15. Replica
M16. Underdrain
M17. jealousy
M18. cage

*アンコール
M19. いのり
M20. 饒舌な星
M21. 舟

(TEXT by Minoru Hirota

 
 
●関連リンク
「罪と楽園」(アーカイブ)
明透(YouTube)
明透(X)
存流(YouTube)
存流(X)
Albemuth