V.W.P、2ndワンマン「現象II」1万字レポート それはまぎれもない「決戦」だった【神椿代々木決戦2024】

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KAMUTSUBAKI STUDIOは1月13〜14日、国立代々木競技場第一体育館にて音楽ライブ「神椿代々木決戦2024 IN 代々木第一体育館」を開催した。

DAY1は、花譜(かふ)、理芽(りめ)、春猿火(はるさるひ)、ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)、幸祜(ここ)の5人組バーチャルアーティスト「V.W.P」のワンマン「現象II -魔女拡成-」、DAY2は、花譜のワンマン「怪歌」(かいか)を実施。

ともに現地・配信を合わせて1万5000人、合計3万人を動員。両日とも3時間公演で、1日目は32曲(!)、2日目は24曲(!!)と超大ボリュームなセットリストを歌い切り、集まったファンを完全燃焼させた。


現地で見守っていた筆者は、2日間の参加後に「どえらいものを見てしまった」と率直に感じた。ステージで見事に組み合わせられたクリエイティブは、KAMITSUBAKI STUDIOを運営するTHINKRの持てる人脈をフル稼働させたまさに「決戦」だった。

個人的なハイライトは、DAY2で発表した、新しいリアルなシルエット姿のバーチャルシンガーソングライター「廻花」(かいか)だ(ニュース記事)。

花譜と並行して活動し、自身で作詞作曲したものを廻花の名義と姿でお披露目していくとのことだが、あまりに衝撃的でしばらく言葉にならず、ただ、キャパ1万5000人という大舞台でもう一度デビューしよう/させようと考えた彼女とKAMITSUBAKI STUDIOの胆力に驚き、この瞬間に立ち会えたことに感謝した。


ライブの流れを追うのは他誌にまかせて、本レポートでは前後編で2日間の見どころと、花譜というバーチャルシンガーから分岐した廻花という可能性についてまとめていこう。ただ、何せ1クール12話のアニメ(約5時間)よりも長い合計6時間のライブなので、かなり端折っても前半だけで1万字とかなり長くなってしまったことはあらかじめお断りしておきたい。

会場に行った方だけでなく、未見の人もぜひアーカイブを視聴しながら読んでほしい(2日間通しで1万6600円、1日のみは8800円)。


花譜から始まり、駆け抜けた5年間

花譜やV.W.Pは、VTuber業界においても特殊な存在だ。MAISONdes(メゾン・デ)プロジェクトの「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」などで最近興味を持ったという方向けに、今に至る流れを軽く触れておこう。

花譜は、彼女が14歳のときにプロデューサーであるPIEDPIPER氏に歌の才能を見出されたが、中学生で学業を優先するなどのさまざまな事情から生身でデビューするのではなく、当時、歌専門のVTuber=バーチャルシンガー(VSinger)の姿を選んで、2018年10月よりYouTube投稿をスタートした。

VTuberは「始祖」であるキズナアイが2016年12月に投稿を始め、そのフォロワーが登場した2017年末〜2018年頭頃にネットで大きく注目を集めたジャンルだ。今となっては「にじさんじ」や「ホロライブ」事務所が目立つが、2018年当時はキズナアイ/電脳少女シロ/ミライアカリ/輝夜月といった四天王が牽引していた時代で、音楽やゲームなどジャンルに特化した新人が次々と登場していった時期だった。

そんな時代の空気の中、花譜はカバー曲である「歌ってみた」から投稿を始めていくわけだが、VTuber界隈のフェス的イベントへの出演を重ねるたびに、激情と繊細さを兼ね備えたような唯一無二の声質にVTuberファンが「この子は何かが違う」とざわつき急激に「観測者」(花譜のファンネーム)を増やしていく。

そして「糸」や「心臓と絡繰」、「魔女」などのオリジナル曲を発表した上で1stワンマンライブの構想を発表。クラウドファンディングで4000万円超という当時のVTuber業界としてはトップの支援金額を集める。そして迎えた2019年8月、東京・恵比寿のLIQUIDROOMでライブ「不可解」を敢行して、VTuber業界に激震を走らせた。

単純にオリジナル曲やカバーを歌うのと思いきや、ステージ自体が三層構造でモーションタイポを使うなどの映像演出に凝りまくったり、異常に長いアンコールを構成を採用するなど、とにかく「普通」を裏切る要素を詰め込みまくり、「すごいものを見せられた」とファンや業界関係者の心に大きな爪痕を残したのだ。

その後、2019年10月にクリエイティブレーベルの「KAMITSUBAKI STUDIO」を立ち上げて、理芽、春猿火、ヰ世界情緒の3人の活動開始を宣言。1年後の2020年10月にお披露目した幸祜を加えて、2021年3月に今まで個別のアーティストだった5人を束ねるV.W.Pが生まれる。

2020〜21年といえばコロナ禍の真っ只中で、リアルでのライブ開催が不可能だった状況だ。その時期をオンラインライブでしのぎ、2021年6月の豊洲PITを経つつ「花譜のライブはヤバい」というブランドを積み重ね、2022年8月、VTuberとしては初めて日本武道館でワンマンを開催。アリーナから三階席までいっぱいのペンライトを咲かせるほどファンを集めて大成功を納めた。

そんな武道館から、さらにキャパを増やした代々木競技場第一体育館を舞台にして実施したのが、今回の「神椿代々木決戦2024」だ。

ファンに求められるまま有名な曲だけ歌って、アンコールも2曲やってそのまま終わる──。そんな「普通にいい」を絶対に裏切ってくれるのがKAMITSUBAKI STUDIOのステージなわけで、今回はどんなサプライズを仕込んでいるのか。

しかも、デビュー時から花譜やV.W.Pの音楽面を担当していたカンザキイオリが、2023年3月に実施した前回の花譜のライブでKAMITSUBAKI STUDIOからの卒業を発表。花譜やV.W.Pとも彼不在で迎える初めてのライブになるわけで、今後、打ち出す路線も示唆されるだろう。はたして何が起こるのか。

楽しみ方としては、目の前のステージを素直に受け取るだけでない、だいぶハイコンテクストなものなのだが、1月13日、筆者としても「決戦」の気持ちで代々木の地に向かった。そしてJR原宿駅を降りたところ、目にしたのは降り注ぐ雪。当日、都内は夕方から雨が降り始め、雷鳴が聞こえるところもあったが、まさか雪まで降ってくるとは……! RPGの魔王城目前のような自然からの「決戦」演出に、「神椿は『持ってるなー!』」と率直に感じた。

DAY1に撮影した代々木第一体育館
会場前には等身大パネルも置かれておりフォトスポットとしてファンが集まっていた(DAY2に撮影)


とにかくデカい代々木競技場の第一体育館

さて本編だが、DAY1の「現象II」は、KAMUTSUBAKI STUDIOが数年にわたって積み上げてきた可能性を3時間に凝縮したものだった。

例えるなら、花譜という種から芽が伸びて木となり、すくすくと幹と枝を伸ばして、満天の花を咲かせた大木を眺めているイメージだ。

まず驚いたのは会場の広さだ。代々木体育館は、中央にある横長のアリーナを挟んで南北にスタンド席を1、2階に用意する構造だ。アリーナの長辺は最大約96m。野球場の両翼やサッカー場の長辺に近いサイズを想像してもらえば理解しやすいかもしれない。端から端まで歩くだけでも1、2分かかる。

今月・来月にコンサートを開くアーティストを見ても、Vaundy、欅坂46、L’Arc〜en〜Ciel、Kis-My-Ft2と錚々たるビックネームで、そこにV.W.Pや花譜が並んでいる。座席に座り「武道館を超えて、アリーナまでついに来たなぁ!」と改めてものすごい勢いで多くの人を魅了してきたんだなとそのスピード感を実感した。


BGMを聴きながら待っていると、ステージの背面LEDに赤い目玉のようなものが現れ、不気味に響く不協和音と共に波形や立方体が動き回るCGが流れ始める。一体、何が起こるのか眺めていると、60からカウントダウンが始まり、「ついに来た!」と会場から拍手が上がる。数値が減っていくのに合わせて、手拍子として音が揃うようになり、カウントが0になって再び大きな拍手巻き起こった。

そうしてオープニングムービーが始まり、一瞬映し出されたのは5本の鍵だった。今回の現象IIは、V.W.Pの2ndワンマンでありながら、2023年を通じて実施してきた「SINKA LIVE」シリーズのエピソード5にもあたる。同シリーズではエピソード0の花譜から、ヰ世界情緒、幸祜、春猿火、理芽と、架空の都市である神椿市を舞台に個別のライブを行い、そこで集めてきた鍵が今、集ったのだ。

5人の始まりの曲である「魔女(真)」をBGMに、魔法陣から駆け上がる光や5人のシルエットなどが映し出され、最終的に柱が立ち並ぶ神殿のシーンに行きつき、その中央でモノクロで空中に浮かぶ石が赤紫や紺に色付いていき、次第に集まって花の形を形成していく。盛り上がるBGMとともに最後に浮かび上がったのは、「現象II -魔女拡成-」というタイトル。期待をバリバリに刺激された観客は「おーーー!」という雄叫びとともに大きな拍手で高まった気持ちを表現していた。

会場が暗くなり、始まったのは独白だ。

「壊れ始めた世界で」
「だけど芽吹き始めてるんだ」
「花の匂いがした」
「じゃあ春はいつ訪れる」
「魔女たちは今、ここに集う」

最後に5人の声で「僕らで現象を巻き起こそう」と宣言すると、真っ赤な照明がサーチライトのように客席を照らし、アリーナから2回席まで客席のペンライトも赤く発光し始める。ちなみに今回のペンライトは無線で色を制御できるタイプのもので、観客が操作しなくても勝手に色が変化する。暗闇に浮かび上がった赤色の「海」を1階席から眺めて、再び「どえらい広い場所に来たなぁ!」と慄いた。

かくして8分ほどかけて観客の「いまか、いまか」の期待を最大限に煽って聞こえたステージからの第一声が、「マイネームイズ花譜」。そう、1曲目はライブの掛け合いが絶対に楽しい「共鳴」で、「We are V.W.P」の宣言とともについに始まった宴に客席からは「フォーーー!」と純度の高い喜びの歓声が上がり、四つ打ちに合わせてペンライトの海が強く揺らいでいた。


魔女たちの歌に魔法をかけられた3時間

ライブ全体の流れとしては、この後5人で歌う曲が続いた上で、衣装を魔女特殊歌唱用形態「花魁鳥(戒)」(エトピリカ カイ)に変更してデュオで合唱。事前に告知していたKAMITSUBAKI STUDIO内コラボの「ヴァーサス」パートになり、歌なしのディスコパート、音楽同位体「V.I.P」との共演を経てそれぞれソロで登場。最後に新衣装である魔女特殊歌唱用形態「八咫烏」(ヤタガラス)にお色直しして、また5人で歌うというものだった。


3時間という長大ボリュームなので書くことがありすぎるが、確実に触れておかなければいけないのは、彼女たちのパフォーマンスだろう。

まずそれぞれのタイプの異なる歌声が素晴らしくて、そこにバンド+ストリングスの生音が加わり、「やっぱいい曲だなー!」や「ここすき」という感情を何度も引き出してくれた。

筆者の偏見では、花譜が素朴さと激情、理芽が可愛さとハスキーさ、ヰ世界情緒が可愛さと凛々しさ、春猿火がかっこよさとキレのよさ、幸祜が力強さとかっこよさ……という歌声の印象だ(異論はありすぎそう)。それが歌い分けで連なったり、サビで重なったりすることで、音に勢いをつけ、歌詞に説得力を持たせて、確実に感情を飽和させにくる。

具体定を挙げると無限に出てくるのだが、筆者的には「花魁鳥(戒)」の姿で歌ったデュオパートが歌声の組み合わせをじっくり聞けて好きだった。8曲目・花譜×理芽「魔的」における「ここにおいで、ここにおいで〜」あたりからの2人の歌い分けの表現力、9曲目・理芽×幸祜「素的」の「永遠に少女ではいられない」からのギターとストリングスに乗せた合唱、10曲目・理芽×ヰ世界情緒「不的」の「あなたらしく生きられたら、どうしたい?」あたりからのサビへの盛り上がり、11曲目・理芽×春猿火「私的」における「かくしごと〜」で貯めてからのダイナミックなサビに行ってめちゃくちゃかっこいいベース。

そんなデュオに次々とぶちのめされたうえで再び5人が姿を表し、スローテンポでそれぞれの声をじっくり聴かせてくれる12曲目・「飛翔」。あまりに壮大に歌い上げる姿に「これ完全エンディングよね?」的な感動を覚えた(実際はまだ3分の1)。


振り付けも印象に残っている。3曲目「玩具」の冒頭のポーズ、5人揃ったステップから間奏における自由なダンス、15曲目「異世界転調リクヱスト」におけるヰ世界情緒の7人目のVALIS感(しかも情緒さんが一番身長が低いのか!)など、とにかく一瞬も見逃せなかた。振り付けではないが、ラスト前のMC冒頭、「同盟」、「強気」、「感情」、「切札」と歌った曲のタイトルコールをしながらの謎ポーズもよかった。

19曲目「プロトコール」、20曲目「機械の声」における、V.W.Pメンバーの声を元にした5体の「音楽的同位」(人工歌唱ソフトウェア)によるユニット「V.I.P -Virtual Isotope Phenomenon-」とのコラボもエモい。このパートは、同じTHINKRのSINSEKAI RECORDSに所属するバーチャルガールズユニット「VALIS」がオリジン(生身)の姿でダンサーとして現れて、リアル/バーチャル合わせて15人がステージに上がるという物量に目を惹きつけられてしまうものの、例えば、花譜の「可不」はあまり動かないけど、幸祜の「狐子」は元気いっぱいで激しいなど、「音楽同位体の動きにも個性ってあるんだ!」というのが新鮮だった。

出演者ではないが、4曲目の「秘密」ではベースがヘドバン、ドラムが立ち上がるなど、配信に映らないところでもバンドメンバーの抑えきれない情熱が伝わってきたのも胸が熱くなった。


そんな素晴らしいステージに向けて、観客にとってはコールを入れる間があったのも楽しかったはずだ。1曲目「共鳴」サビの「レッツシングアウトボーイ! レッツシングアウトガール!」、4曲目「秘密」で5人に合わせての手を振り翳しての「オイ!オイ!」、7曲目「定命」冒頭の「デデッデデッデ」→「V.W.P!」など、自分の声がバチっとハマった瞬間がとても気持ちがよかったはずだ。

29曲目「強気」の冒頭などであったステージからの呼びかけでペンライトを左右に振るのも一体感が強く感じられたはず。ライブの醍醐味といえば、アーティストとその楽曲をより好きになれるところにあるのだが、普段はそこまで興味がなかったけど、今回のライブで体験して「こんないい曲だったんだ!」と覚醒した方も多かったのではないだろうか。


妥協のないステージや演出

舞台装置、映像、照明も「よくやったなぁ」と感嘆するレベルだった。

舞台装置でいえば、まずステージ両脇に天井に届く勢いでそびえ立っていた大木が目を引いた。具体的には、LEDテープで飾られた立方体を積み重ねて、その中に大木を置くという造りだ。さらに内部にライトが据え付けられており、特にオープニングでは青い照明の中で黄色に神々しく輝いてさながら「生命の樹」の様相を呈していたのが印象的だった。聞けば幹の部分が生木で葉はイミテーションとのことだが、率直に「よくこんなドデカいの作ろうと思ったな!」と驚いた。


映像を投影する装置も、とにかく細かいところまでアラを潰してきたのがスゴい。V.W.Pメンバー、特に花譜におけるライブといえば、映像作品としての作り込みも毎回目を見張るところだが、ステージが大きくなればなるほどショボく見えないように説得力を持たせる難易度が上がる。

今回のステージは2階建で、2階部分は人が乗れるスペースになっており、LEDウォールは、

①2階背面の400インチほどの巨大なもの
③2階左右の大木が見透かせるシースルーで縦長のもの
②正面の壁に横長のもの

という3種用意。一番外にサービス映像用のスクリーンを吊るすという構成だった。

使い分けとしては、ライブの前半はV.W.Pのメンバーを横長LED、MVや歌詞などの映像を巨大LEDに、後半は入れ替えてV.W.Pのメンバーと背景映像を巨大LEDに、歌詞のモーションタイポを横長LEDにそれぞれ写すというものだった。左右のシースルー縦長は、歌詞や演出の補助に当てていた。

ただ、これだけスクリーンが多いと、どこに何を映すのか、実際きちんと見えるのかのプランニングだけでも一苦労になる。1日目の32曲+2日目の24曲だけでなく、オープニングやエンディング、途中で流すシーンもあり、それらを4つ分のLEDで考えて関係者向けに資料を作ることを想像しただけでも気が遠くなる(というか気絶しそうだ)。

そして恐らくCGで舞台セットを組んで見え方をシミュレーションしながら映像を完成させても、現地で色合わせを行わなければならない。色味が同傾向で継ぎ目が見えにくい同ロットのLEDパネルを何十枚も用意した上で、現場で映像を流して照明やレーザーも含めてきれいに見えるように微調整を重ねるなど、とにかく時間と手間がかかる。それに2日間で6時間もあるライブだ。「じゃあ前日にステージ組んでリハまでやっちゃいましょう」で間に合わせるとなると、スタッフは徹夜になってしまうのではないだろうか。

そもそも両日のワンマンは別日や別会場があるわけではない、一度きりのライブだ。そこまで映像や装置を突き詰めてつくっても「よし終わり!」でバラすことになるわけで、それでも妥協の跡が見えなかったことに改めて狂気しか感じない。ともすると「バカなこと」に大金を投じて才能のある人を集めて、とにかく実直に向き合って完遂した。これは素直に偉業だ(すごい)。


映像でいえば、配信用の絵も作らなければならない。配信では、実写にV.W.Pの5人を合成するARも利用している。ライブ中継というと、出演者の顔やステージ全景など、複数のカメラで映したさまざまなアングルを組み合わせて絵作りする。しかし、VTuberのライブでは出演者がLEDに映っているので、横や斜めから写すと姿が平たく見えてしまい、基本的に正面からのカットに見せ方が限られがちだ。

この問題を解決するため、現地のカメラで撮った実写に、同じ方向からのCGを重ねるAR演出を入れるわけだが、そうなると「この演出は絶対映したい」という演出側の意図を汲むなどを調整した上、ライブ時にスイッチャーがカメラマンに指示を出しながら実際に使う絵に切り替えるという手間が必要になる。要するに面倒ということだ。そのおかげで、われわれは斜め下からV.W.Pの顔を見たり、出演者の背中から客席をのぞむといった現実にはないアングルを堪能して、彼女たちが本当にステージにいるように実感できるわけだ。

配信の映像は、現地でのライブ体験とは別物で、出演者の表情がよく見えたり、音やMCが聞きやすかったりというよさがある。ありがとうAR。現地組もぜひアーカイブを見てほしい。


さらに、映像では配信と左右のサービススクリーンで別の映像を流していた点も「芸コマ」(芸が細かい)だと感じた。左右のサービススクリーンは、もともと遠方の席にいる人でも出演者の顔が見やすいように用意するものだが、手間がかかるため配信用の映像を流用していることも多い。

それが今回は、恐らく専用のオペレーターを用意して、出演者のバストアップだけをスイッチングしながら流していた。プロセスが増えれば事故率も上がるわけだが、それでも「せっかくきてもらった観客にきちんと見てもらいたい」と原義に則る。え、サービス映像のためにもう1人オペレーター入れるんすか? その諦めない心意気、めちゃくちゃヨシ!じゃないすか。

 
そんな映像に合わせた演出も随所で気持ちをアゲてくれた。物理で言えば、照明やレーザーはもちろん、アリーナや屋外でしか使いにくいド派手な炎、1階の横長LEDウォールの上から噴出したスモーク、会場の1階席まで漂ってきたシャボン玉、定番の銀テープ……などなど、「よっしゃフルコースでやったるで!」なノリノリの勢いで盛り込んできた。6曲目「再会」の冒頭、クロック音に合わせてステージ上部にあるLEDが時計の針を刻む演出が入るところなどでは、「使えるもん全部使ったる」の気合いが伝わってきた。

現実とCGを巧みに重ねる演出にも言及しておきたい。1日目でいえば、ラスト前のお礼を伝えるMCパートがわかりやすい。ステージに実際にあるものと同じデザインのトラス(パイプを組み合わせた柱)や照明のCGを作り、巨大LEDウォール内に映し出して奥行きがあるように錯覚させることで、先ほどのARを使わなくても、彼女たちが本当にステージに立っているように見せていた(いや、本当に立っているのだが)。

こうした配信でのARや、現実/バーチャルの境目をわからなくするステージ演出は、VTuber業界ではよく利用される手法で、「そんなの当たり前じゃん」という声もあるかもしれないものの、何せ代々木体育館という「クソデカ」会場で、3時間×2日間という超長尺なライブ時間だ。繰り返しになるが、目でも耳でも見る側に何も違和感を感じさせず、「最高」を届けたことが偉業なのだ。

他にも3Dモデルや衣装の美しさについても語りたいが涙を飲んで割愛する。ここまで書けば、「KAMUTSUBAKI STUDIOが数年にわたって積み上げてきた可能性を3時間に凝縮」という前述の重さが伝わるはず。

すべては集まってくれた1万5000人の心を動かすために──。

歌、詩、音、イラスト、映像、服飾、建築。さまざまな分野の才能がその情熱を惜しげもなく注ぎ込んでまとめ上がった総合芸術。それが「神椿代々木決戦2024」だった。


バーチャルの存在が流す、見えない涙の重さ

ずいぶん長くなってしまったが、心を動かすといえば、最後に5人の「想い」にも触れておかなければいけない。

最後の曲の前、1人ずつ順番に感謝を伝える場面で、他のメンバーの話をきっかけに感情が飽和して、理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜と4人が立て続けに涙ながらのMCになってしまったというシチュエーションがあった。彼女たちの積み重ねてきたものを観測してきたファンなら、その想いに共感して涙を我慢しきれなかったはずだ(筆者は普通に泣いた)。


「このV.W.Pの5人って、全然、歌声も性格も似てなくて、多分、V.W.Pってこれがなかったらこんなに深く知り合えなかったと思うし、そもそも出会ってなかったと思うんです。この5人が集められたという一番最初のひとつの奇跡から、今日までこの5人、そしてチームのみなさんと、そして今観測してくれているあなたと一緒にたくさんの力だったり思いとか愛とか、本当にいっぱいのものが積み重なって、その上に今日という必然的最高の日が生まれた、迎えられたんだと思います。関わっているすべてのみなさんに、本当に経緯と感謝の気持ちでいっぱいです。いつも本当にありがとうございます」

そう最初に花譜が挨拶すると、理芽が「なんか、感動しちゃった」「え、無理だって」と涙声に。さらに「なんか、それぞれがこれまで歩んできた人生とか、目指してきたものとかがそれぞれ違う私たちがこうしてグループとして心を一つに活動をできていること自体が、すごく奇跡だと思うし、ああ……」と言葉を詰まらせて、両手で顔を仰ぐ仕草をする。

春猿火も、冒頭「私も二人と同じ気持ちなんですけど……ああ、泣く……。何より昨年の本番リレーからここまで一緒に壁を乗り越えてきたVWPメンバーに本当にお礼と感謝を伝えたいです。本当にありがとう」と涙声で伝えると、他のメンバーが「ありがとう」と涙で詰まらせた声で返す。

ヰ世界情緒は、「今、ここにいるみなさんとは、私たち5人との歌の出会いが必ずあって、それが絶えず今日まで歩んでこれたということが、どんなに愛おしいことなのか。自分の想像では追いつかないぐらい……ワァ」と言葉を詰まらせて横を向いてしまう。続けて、「素敵な愛で溢れた場所だなと思っています。今日、私たちがこの舞台に立てているのも」と言いかけて言葉が続けられなくなり、「もうみんなー」とたまらず右隣の春猿火に抱きつきにいく。

最後の幸祜も、話す前から鼻を啜り、左手で顔を押さえて「この流れはアカンて」とぼやく。途中でも「今回私がSINKA LIVEを通して得たものとしては、自分を信じることの可能性の、信じていく可能性のことです」と言いかけて咳き込んでしまう。さらに「自分がどこまでできるのかとかさ、5人が殻をそれぞれ破って挑戦してやめないことで、どんな未来が待っているんだろうかとか、それって決して簡単なことでもないし、笑うのって本当に一瞬で、泣くことの方が普段は多いかもしれないんだよね。いつも、がんばってるんだよ」と再び泣いてしまう。

 
存在の純粋な想い、本当の言葉に触れたときの共鳴。

涙はバーチャルの体で描画されない。でも感謝の想いはきちんとみんなの心に届く。

さまざまな人の想いがつながったこの瞬間が、とても美しいと現地で感じた。

 
この後に32曲目「魔女(真)」を歌って、ラストの挨拶になるのだが、最後の最後で挨拶する幸祜のシーンがぐちゃぐちゃに泣いて笑ってしまえてとても素敵だ。バーチャルタレントという枠に限らず、音楽ライブの表現として全編が見どころ満載なので、必ずアーカイブで見てほしい。

 
 
さて、筆者が不思議に思ったのは、花譜だけが大泣きしなかったことだ。

過去のライブにおいて最後のMCで涙声になることも多かった彼女だが、今や場数を踏んだ「先輩」としてこの場に立っているのだなぁ……とぼんやり考えていたが、実は翌日にある自分のワンマンという「決戦」に向けてのとんでもない「覚悟」をしていた最中だったのかもしれない。

この話は別記事で「もうちっとだけ続くんじゃ」をさせてほしい。


現象II -魔女拡成- セットリスト

●第一部 WE ARE V.W.P
1.共鳴/V.W.P
2.輪廻/V.W.P
3.玩具/V.W.P
4.秘密/V.W.P
5.変身/V.W.P
6.再会/V.W.P
7.定命/V.W.P

●第二部 仮想世界より
8.魔的/花譜、理芽
9.素的/理芽、幸祜
10.不的/理芽、ヰ世界情緒
11.私的/理芽、春猿火
12.飛翔/V.W.P

●第三部 ヴァーサス
13.此処で咲かせて/幸祜×CIEL
14.絵画のように美しくいたかった/理芽×Guiano
15異世界転調リクヱスト/ヰ世界情緒×VALIS
16.friction(Remix)feat. 梓川/春猿火×梓川
17.千年奏者/花譜×Albemuth

●第四部 THE PARTY 
18.V.W.P DISCOTHEQUE
19.プロトコール/V.W.P、V.I.P、VALIS
20.機械の声/V.W.P、V.I.P、VALIS

●第五部 覚醒1
21.描き続けた君へ/ヰ世界情緒
22.百年/理芽
23.ゲンフウケイ/幸祜
24.身空歌/春猿火
25.邂逅/花譜
26花束/V.W.P
27.祭霊/V.W.P

●第六部 覚醒2
28.同盟/V.W.P
29.強気/V.W.P
30.感情/V.W.P
31.切札/V.W.P
32.魔女(真)/V.W.P

 
(TEXT by Minoru Hirota


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●関連リンク
現象II -魔女拡成-(アーカイブ)
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