アニメやゲームに並ぶVTuberのマス化を グリー傘下・REALITY Studiosに聞く令和5年、今の戦い方

LINEで送る
Pocket

VTuberといえば、2017年末〜2018年初頭に爆発的に注目を集め、ネット発の新しいエンターテインメントとして定着し、今や上場企業を2つ生み出した盛況な業界になる。

あの勃興から5年経過した今でも企業・個人を問わず新規参入が後を経たない状況だが、この3月、グリーがVTuber事業を展開するREALITY Studios株式会社の設立を発表。矢継ぎ早に、VTuber事務所「FIRST STAGE PRODUCTION」(いちプロ)の新設を宣言して、1期生の7人が3月10日に配信デビューした。さらに4月1日には早くも2期生のオーディションを募集し始めるなど、攻めの姿勢を見せている。

グリーといえば、VTuberムーブメントの初期から「KMNZ」(ケモノズ)、HACHIらを抱える「RK Music」といった音楽系のバーチャルタレントを運営してきた実績がある。一方で、新設の「いちプロ」は、バラエティー路線と今までとまったく異なる路線だ。

KMNZ
HACHI
FIRST STAGE PRODUCTION(いちプロ)

今後、どんな布陣で競争が激化するVTuber業界で名を挙げていくのか。REALITY Studiosの社長である、杉山綱祐氏にお話を聞いたところ、「いちプロ」に止まらず、どんどん新規事務所を抱えていくという興味深い方針を語っていただいた。


●杉山氏プロフィール
グリー執行役員、REALITY Studios代表取締役社長。2012年グリー新卒入社。2019年にグリー執行役員に就任。経営企画部部長として経営戦略の策定を主導。2023年にREALITY Studiosを立ち上げ、代表取締役を務める。


社内にファン層が異なる事務所が併存

 ──REALITY Studiosの立ち上げの経緯を教えてください。

杉山氏 弊社は、コミュニケーションサービスの「REALITY」をやっているREALITY株式会社からの分社で、そこでもVTuber事業自体は展開してきました。しかし、コミュニケーションアプリとVTuberはシナジーはあるものの、事業体としては別になります。そこで会社としては切り分けて、すでに持っている制作チームや技術的なアセットなどの強みをもとに投資していけば、全体として伸びているVTuber市場の中で、われわれも成長できるのではという判断です。

 
──形式としては、KMNZや音楽グループのVESPERBELL、事務所のRK MUSICに、「いちプロ」を統合した感じでしょうか?

杉山氏 統合というよりは併存です。KMNZは社直下のプロジェクトとしてあり続けますし、キングレコードさんとの共同事業であるRK MUSICも引き続き強化していく上で、3月デビューの「いちプロ」も独立して存在します。REALITY Studiosの中に独立した事務所が並立している状態です。

なぜそうした戦略をとっているのかというと、いちベンチャー企業ではなく、グリーグループだからこそ大きな規模で展開可能で、結果的に社会的にも価値を提供できて、それが勝つための取り組みにつながっていくからです。ファン層は、独立した事務所で別々になる。ファンの取り合いにならないことを前提にやっていくのがいいのではという考えです。

 
──「にじさんじ」や「ホロライブ」も、過去にVSingerやゲーム実況、海外グループなどのサブブランドを立ち上げて、幅広いファン層を取り込もうとしてきました。何がどのタイミングで大きく注目されるかわからないので、資金力があるなら色々な可能性に張るということですか?

杉山氏 はい。その中で、横の学び合いはしつつも、ある事務所の人が別の事務所を兼務しないとか、あくまでも独立性を重視しています。

 
──色々な可能性に張るというと、グリーさんから見て今のVTuber業界はどんなトレンドがあると思いますか?

杉山氏 直近の日本では「にじさんじ」さん、「ホロライブ」さん、それに「ぶいすぽっ!」さんが伸びてますよね。ただ、全体の捉え方としては、できてまだ5、6年の市場で、ほかのエンターテイメントコンテンツに比べるとまだ全然若い。成熟していないので、形態やフォーマットを変えながら、全然これから伸びていくと思っています。

特に大事なのはビジネスの特性上、VTuber事業はコンテンツとタレントの掛け合わせみたいなビジネスだと思うんですけど、これって別にプラットフォーマーになるわけでもないので、どこかの会社に寡占されることがない。例えば、ゲームにおいてあるジャンルが人気でも、新しいジャンルが出てきて並列しますよね。なので、自分たちとしてはそういう市場と捉えている。

もうひとつは地域、日本だけじゃないというのがすごく重要だと思っています。日本より世界の方が圧倒的に人口が多いし、スマートフォンやインターネットなどの普及速度もこれからもどんどん伸びていく。自分たちとしては、日本以外のグローバルでの伸び代はすごく大きいと捉えています。

 
──「いちプロ」はどんな経緯で立ち上がったのでしょうか?

杉山氏 冒頭でも話した会社の設立経緯とも似ていて、市場における自分たちの強みを見て、VTuber事業を強化していくために複数の事務所を抱えていく──。その第一弾の施策が「いちプロ」になります。この先もしかしたら、「いちプロ」とは違う色の事務所が出てくるかもしれないし、この戦略のやっていくぞという上での第一弾として捉えてほしいです。

 
──会社内に事務所をどんどん立ち上げていくというのは、「ぶいすぽっ!」や「RIOT MUSIC」などを抱えるBrave groupを連想させます。いちプロについて、当初から男女タレントが混合というのが珍しいと感じたのですが、この理由は?

杉山氏 まず、「いちプロ」は、総合エンターテイメント的な事務所を目指すのがコンセプトです。今までのKMNZやRK Musicは歌系が中心で、総合エンターテインメントやバラエティーがやったことがなかった。というところで初のチャレンジになるので、ユーザー層をばらけさせたかった。実はタレントたちに共通点があまりなくて、市場を見て「このタレントはこのユーザー層に喜んでもらえそうだ」と考えたりして分散させています。

その市場提案をして、どう受け入れられたかを見た上で、「次はこうしていこう」と調整していくことが大事だと思っています。なので、意図的に性別をよせたりというのはせず、応募いただいたタレント様の中からばらけさせて選ばせていただいたという形です。

 
──事務所の強力なコンセプトにあった方を選んだというよりは、あくまでもファンありきという感じでしょうか?

杉山氏 というよりは、総合エンターテインメントの事務所になるので、例えば歌などの制約なしに、タレントが何をVTuberとしてやりたいかが根底にあります。

 
──KMNZやRK Musicは、どういった位置付けになるのでしょうか?

杉山氏 「いちプロ」を事務所と捉えると、同じ事務所として歌に特化したアーティストが所属しているRK Musicが挙げられると思います。われわれのVTuber運営と、共同で取り組んでいるキングレコードさんの音楽レーベルのノウハウの掛け合わせられるのが強みで、歌を軸に心を動かす価値を提供できると思っています。

KMNZとVESPERBELLについては、特にKMNZが2018年から一番長く続けているプロジェクトになります。今って、VTuberがちょっと伸びているから手を出してみて、すぐに事務所を辞めてしまうというケースが結構ありますよね。

 
──ありますね。

杉山氏 ずっと長く続けられていて、実際ファンが積み上がっていく構造があって、これはタレントにとってもファンにとっても両方いい状況で、運営力が蓄積されてきていると思います。


 24時間聴いていられる「推し」の声に元気をもらえる原体験

──バーチャルタレントといえば、REALITYにもアバターの姿で活躍されているインフルエンサーがいます。そうした方々がREALITY Studiosでタレント活動をする可能性はありますか?

杉山氏 その横との事業シナジーは弊社が世の中に提供できる強みのひとつなので、可能性はあると思います。すでにRK Musicの一部のタレントはREALITYの配信者出身です。なので事実としてもうやっていて、それを今後も各事務所の色合いに合わせて展開していければと思います。

逆にそれをやらないと、グリーグループの強みの活用にならない。REALITYアプリで特に重要なのが海外比率で、8割ほどが海外ユーザーなんです。他社さんで大規模にコミュニケーションアプリをやっているところはないはずなので、その海外の配信者候補にリーチできるところも強みになると思います。

 
──御社としては技術に力を入れている印象がありますが、今、盛り上がっているAIを活用した「AITuber」についてはどう捉えていますか?

杉山氏 AITuberについて、今何かすぐ動いていることは正直ありません。ChatGPTの技術革新はめざましくて、日々新しいことが起きていると自分的には捉えています。AIVTuberが今盛り上がっていますし、これからもジャンルの一つになるのではと考えていますが、一方で生身のVTuberへの需要もなくならないでしょう。

ゲームでもAIとの対戦があれば、友達との対戦もあって、それぞれ見る側の需要がある。エンターテイメントコンテンツの歴史から言うと、機械との何かというのは発展していく方向に向かっていますが、生身の人間の価値も認められていくと思います。もう少し動向を見極めて、われわれが取り組む意義が見えたら参入するかもしれません。

 
──話はがらっと変わりますが、杉山さん自身が魅了されたVTuberならではの表現の強みはありますか?

杉山氏 そうですね……。実は一番は好きな女性のVTuberを前から「推し」ているんですが、自社以外なので名前は伏せさせてください。彼女に関して、多分三次元で目の前にいてもそんなに興味を持たなそうなんだけど、、二次元で配信を通じるとずっと聴いてしまう現象が起こってしまっているんです。

この子の何がいいかというと、声がめちゃくちゃ好きで、寝る前とかもそうですが、24時間ずっと聴いていられるんです。そこでよくある話としてラジオ感覚として接した上で、身近でチャットやTwitterなどでやり取りもできてしまう。

そのずっと聴いていられる声と距離の近さに元気をもらえて、毎日が楽しくなる。自分のスマートフォンで仕事しながらも、帰ってからもずっと聴いていられるのが一番の衝撃でした。この話、社内ではしすぎて若干引かれながらも、みんな受け入れてくれます(笑)

 
──裏方で支えているチームもVTuberが好きで集まってきている感じなのでしょうか?

杉山氏 むちゃくちゃVTuber大好きな人が集まっているチームですね。個人的にはこの前は自分の「推し」のイラストレーターさんに「絶対!」と思って、仕事をお願いすることができてとても嬉しかったです。

 
──(笑)。最後にREALITY Studiosで達成したいゴールや目標を教えてください。

杉山氏 2つありまして、まず1つはVTuberのマス化はやっていきたいと思っています。私小さい頃からアニメやゲームが好きな生活を送っていたのですが、当時はアニメやゲームを好きというと女の子から白い目で見られる状況があった。ただ、今は市民権を得ている状況があると思っていて、「鬼滅の刃」然り、邦画や洋画と同等以上にアニメが見られている時代です。これもVTuberってトレンド的には、時間軸はあれど、いつか今よりマス化する時代が訪れる。そういったことを自分がVTuber好きだからこそ、より早く実現したいと思っています。

2つ目は地理ですね。今、日本のアニメ的なものが動画配信のNetflixやAmazonプライムに乗っかったことによって、全世界に広がっている。その日本的なよさ、エンターテイメントの良さを日本だけでなく、全世界に展開していくことをやりたい。自分が好きなものを世の中に提供したい、かける、日本から世界という可能性に挑戦するというのを目標として掲げたいと思っています。

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
●関連記事
デビューでいきなり24時間耐久!? 新VTuber事務所・FIRST STAGE PRODUCTION(いちプロ)の新人7名に刮目せよ【PR】
HACHI、2ndワンマンライブ「Midnight blue」レポート 「たくさんの応援があって今ここに立っています」
 
●関連リンク
REALITY Studios
KMNZ
VESPERBELL(Twitter)
RK Music
FIRST STAGE PRODUCTION