現地だから沁みた町田ちま、戌亥とこ、朝日南アカネの歌声の力 にじさんじ・Nornis、1stライブ 「Transparent Blue」レポート

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3月15日、バーチャルライバーグループ「にじさんじ」町田ちまさん、戌亥とこさん、朝日南アカネさんによるボーカルユニット「Nornis」(ノルニス)が初めてのワンマンライブ「Nornis 1st LIVE -Transparent Blue-」グランキューブ大阪のメインホールで開催。ストリングスとバンドの生演奏とともに、初披露曲を含むオリジナル10曲と、カバー6曲を披露した。

昨年6月、何の予兆もなく突然発表された新ユニットの結成。歌唱力に定評のあるライバーという共通点はあったが、それまでの活動で濃い関わりはなさそうだった3人によるユニットということで、最初にそのニュースを読んだときには、どんなユニットになるのかあまり想像はできなかった。しかし、活動開始の発表と同時に公開された1stオリジナル曲「Abyssal Zone」のMVで3人のハーモニーを聴いた瞬間、Nornisがライブを開催するときは、絶対に現地へ行こうと決意した。

昨年12月に新宿の大型ビジョンで行われたミニライブは、諸事情で参加できなかったため、リベンジの気持ちを胸に大阪への遠征を決行。活動開始から約9か月、ついに実現したNornisの1stライブの模様をレポートする。ライブの模様は、ニコニコ生放送で有料配信。冒頭3曲と最初のMCまではYouTubeのNornis公式チャンネルで無料配信された。


デビュー曲「Abyssal Zone」で1stライブ開幕

会場の座席に着くと、背もたれにライブロゴの入ったペンライトが差してある。今回のライブの現地チケットは無線制御式のペンライト付き。開演前の影ナレで戌亥さんがペンライトの機能を説明しているとき、会場中のペンライトが一斉に真っ青に変わると、客席からは驚きの声が上がった。

会場内に流れていた音楽が止まると、すべてのペンライトが消えて真っ暗な空間に。客席からは大きな拍手が自然発生して、自然に止まる。観客たちの「Nornis」の音楽が聴きたいという思いが伝わってくるようだ。最初に聞こえてきたのはストリングスの美しい音色。ステージの左に並ぶ、二人のバイオリンと、ビオラ、チェロがライブの表題曲「Transparent Blue」の壮大なメロディを奏でていく。途中からは、ステージ右に並ぶ4人編成のバンド隊の演奏も合流。「Nornis」の3人がまだ登場しない時点で、大阪まで自費で遠征してきた出費の元は取れたと感じたくらい素晴らしい演奏で、この後の期待感がますます高まる。バンドが加わり力強さを増した音は、流れるようなつなぎでNornis始まりの曲「Abyssal Zone」へとシフト。そして、3人の歌声がホールに響き始めた。

戌亥さんの綺麗で力強い歌声は、2階席に座っていても、ストリングスやバンドの生演奏にまったく負けない音圧で届く。Virtual to LIVE in 両国国技館 2019で戌亥さんの生歌を初めて聴いたときの衝撃は、筆者がその後も様々なVTuberの音楽ライブに通い続ける動機にもなっているのだが、戌亥さんのボーカルのすごさを十分過ぎるほど理解した今でも、生の歌声の音圧には何度でも驚かされる。

2018年8月のライバーデビュー当時から高い歌唱力に定評があった町田さんだが、客席がある有観客ライブへの出演は今回が初めて。筆者が町田さんの生歌を聴くのも初めてなのだが、配信で同じ曲を何時間聴いていてもまったく飽きないほど魅力的な高音は、大きなホールの中でも綺麗に響きわたる。最高点に到達したように聴こえても、そこからさらに伸びる歌声には、驚くしかない。

2020年8月にデビューと3人の中では一番、後輩の朝日南さん。しかし、デビュー当初から歌枠配信や、歌動画公開の頻度は高く、音楽活動には非常に積極的。もちろん、実力も兼ね備えており、筆者が初めて朝日南さんの歌声を聴いたときには、低音がカッコ良いボーカリストという第一印象だったのだが、次に聴いた曲では高音や裏声の綺麗さにも気づかされた。そして、「Nornis」では、中音域を担当することも多い印象。何よりも、どの音域でもあふれ出る歌声の「華」が最大の魅力だろう。

最初に公開されたMVを観たときから感じていたのだが、「Abyssal Zone」は「どう? この3人の歌声、すごいでしょ?」というNornisスタッフのドヤ顔が見えてきそうな曲だった。サビからはそれぞれの魅力を持った3人の歌声が綺麗なハーモニーになるが、3人全員に対して、「この2人と一緒に歌って、負けてないのがすごい」という同じ感想を持ってしまった。


壮大な1曲目から一転、2曲目は爽やかな曲調の「Daydreamer」。町田さんは、笑顔で「グランキューブ大阪! 楽しんでいきましょう!」と叫び、朝日南さんも大きく手を振る。戌亥さんは、イントロの間、客席を見つめながら手を振る熱いファンサをしていた。曲調が変わると、3人のまとっていた雰囲気も変わり、会場の空気も一変する。これも生ライブの楽しさだ。間奏では、客席を先導するように大きく拍手する3人。歌声や演奏だけでなく、ブルーに統一されたペンライトの光が左右に揺れる光景も美しい。

3曲目は、ミステリアスでドラマ性も強い「Through the glass」。3人の歌声の表現力の幅広さはもちろんだが、ステージ奥のスクリーンの映像や照明ともリンクした、制御式ペンライトの光の変化が印象的。記者席は、ステージと1階席を一緒に見渡せる2階席にあったのだが、非常に美しい眺めだった。


3人それぞれの個性が光るソロ曲も披露

最初のMCは、3人の自己紹介から始まった。

「Nornisのメンタルコーチ担当、戌亥とこです」
「Nornisの知性担当。上から読んでも下から読んでも、町田ちまです」
「Nornisの愛嬌担当。朝日南アカネです」

初めてのライブを前に、前日からすごく緊張していたという朝日南さんに対して、「すごい大勢の人に観られてるよ(笑)」と追い打ちをかける戌亥さん。あえて負荷をかけることでメンタルを鍛えるタイプのコーチのようだ。

「酔いどれ知らず」「君の銀の庭」とカバー2曲を続けて披露した後の2度目のMCでも、前夜、ホテルの部屋で何かバタバタと音を立てていたことを先輩2人に暴露され、恥ずかしがる朝日南さん。深夜に緊張をほぐそうと一人で練習したものの上手くいかず、ベッドの上で「『もう、バカバカ』みたいな感じで、静かにポスポス」と枕か何かを叩いていたそうなのだが、戌亥さんからは「棚でもつくってるような音がした」とからかわれる。「Nornis」結成時には、この3人がどんな会話をするのか、まったく想像できなかったのだが、圧倒的なパフォーマンスの合間に挟まるほっこり笑顔になる緩い会話。この雰囲気も癖になる。

6曲目からは2月に公開されたばかりのソロ曲のコーナー。まずは、朝日南さんが「Unchained」を披露。ここまで披露した曲とはがらりと変わって、クールだがダンサブルな曲で、激しい振りのダンスを踊りながら、低音から高音まで綺麗な歌声を響かせていく。左右に体を振るとふわりと膨らんだシルエットがアシンメトリーに見えるフィッシュテールのスカートもますます映えるステージだった。

7曲目は、町田さんの「名前のない感情」。美しい高音のまま、繊細な歌声も太く強い歌声も自由自在な町田さんにぴったりの曲で、その分、難易度も高そう。町田さんの歌声を聴くと、「きれい」「高い」「上手い」といった感想がまず頭に浮かびがちなのだが、「名前のない感情」を歌う町田さんは、カッコ良い。

戌亥さんのソロ曲「六道伍感さんぽ」は、まさにゆったりと散歩をしているような曲。ムーディなメロディで、直球に明るい曲ではないのだが、戌亥さんの優しい歌声の魅力で、不思議と穏やかな気持ちになっていく。

再び3人が揃っての9曲目は、切ないバラード「夜永唄」のカバー。綺麗なユニゾンでも、個々の歌声の魅力ははっきりと分かるサビが印象的だった。

MCで、町田さんが「ここからはライブ後半戦」と宣言した後の10曲目と11曲目は、ボカロ曲のカバー。「PaⅢ.SENSATION」では、イントロから3人がダンス。町田さんをセンターに、「踊るNornis」という新たな魅力を後半戦の頭から披露した。シンセとストリングスが前面に出た曲調も印象的で、色鮮やかな光に照らされた会場は、曲のイメージにぴったり。これまでの曲でも常にそうだったのだが、無線制御されたペンライトが会場の雰囲気作りに大きく貢献していた。

続く「シニカルナイトプラン」では、センターが朝日南さんにチェンジ。3人でのラップパートがカッコいい。11曲目は、少し不穏なストリングスからはじまるオリジナル曲「fantasy/reality」。サビのフレーズは中毒性が高く、マイクとは逆の手を大きく上下に動かす手ぶりも印象に強く残る。ストリングスのみのアウトロも非常におしゃれだ。

「fantasy/reality」を歌い終えた直後、「ありがとうございます」と客席からの拍手に応えると、いきなり「最後の曲に行く前に~」と話し始める町田さん。戌亥さんが笑いながら「そんな軽いノリで次が最後だってバラさないでよ(笑)」と突っ込むと、「あ、ごめん。そうだよね(笑)」と動揺。プロンプターの表示ミスでもあったのか、「次が最後の曲です」的な言葉を飛ばしてしまったようだ。戌亥さんは何とかフォローしようとするが上手くいかず、結局、「fantasy/reality」の最後のポーズに戻り、町田さんの「ありがとうございます」からMCをやり直すことになった。圧倒的なパフォーマンスの後の可愛く楽しいドタバタ。繰り返すが、これもNornisの魅力なのだろう。

仕切り直しのMCでは、「PaⅢ.SENSATION」と「fantasy/reality」のダンスに関するエピソードなどを披露。衣装を見せるため、その場でクルクルと回る朝日南さんが可愛かった。

開幕から素晴らしい演奏を披露してきたストリングスとバンドのメンバーを紹介した後、町田さんが「最後の曲は……」と改めて話し始めると、戌亥さんは、先のやり取りを思い出したのか声を上げて笑ってしまい。笑いながら「止めてよお」と嘆く町田さんと、すぐに謝る戌亥さんのやりとりも微笑ましい。

町田さんが「明日からもみんなが頑張れるように背中を押してくれる曲」と紹介した本編最後の曲は1stシングルのカップリング「Goodbye Myself」。勇気を持って新しい一歩を踏み出そうと語りかけるような言葉が、3人の伸びやかな歌声でホールを埋め尽くす人々へと届けられていく。スクリーンの映像も青空から夕焼けに変わり、再び青空になることで、明日へ向かうことを表現。照明やペンライトも連動し、「Goodbye Myself」の世界観が会場全体を包み込んでいた。大きな拍手の中、会場のすべての灯りが消えた後、再び照明が灯ると、ステージに3人の姿はなく、スクリーンには青空とともにライブタイトルが映されていた。


初お披露目の新曲「White blossom」も圧巻

客席からは、当然のようにアンコールの声が自然発生。再び、暗転した会場が明るくなると、ステージ上にはNornisの3人の姿が。アンコールの1曲目、ロックバンド緑黄色社会のポップな曲「キャラクター」を歌う3人の姿は、本当に楽しそう。客席からは3人の歌をまだ聴けて嬉しいという気持ちが伝わってくるような軽快なクラップが響く。

心地良い歌声に引き込まれながらも、この後はMCがあって、最後にまだ披露されてないライブの表題曲でフィナーレだろうと考えていると、聴こえてきたのは、戌亥さんの歌声と聴き覚えのないメロディ。もちろん、朝日南さん、町田さんの歌声も加わり、ステージ上のスクリーンでは雪のような白い花びらが舞う中、客席の誰も聴いたことのない新曲が初披露された。後のMCで明かされた曲名は、「White blossom」

ここまで3人の歌声を彩ってきたストリングスの奏でる音に意識が向かないほど、圧巻だった3人の歌声。サビでは、朝日南さんが華やかさもある独特の低音で支え、戌亥さんの力強くも優しい歌声は、低音から高音まで自在に変化し、3人のハーモニーの軸になっている。そして、まるでヒーローの必殺技のような町田さんの超高音のロングトーンは、綺麗なまま、どこまでも高く強く響いていく。この曲がもう15曲目でありながら、3人のハーモニーの魅力に、また驚かされてしまった。

最後のMCでは、AR技術を生かしNornisの3人と客席のファンが一緒に記念撮影。その後は、一人一人がNornisの初めてのライブを見守った人々への感謝を語っていった。

朝日南「こんな大きなステージで歌を歌うことができたのは、本当に皆さんの応援のおかげだと心から思っています。皆さん、こんな素敵な景色を見させてくれて、それから、夢を叶えてくれて、本当にありがとうございます。そして、大好きで、尊敬しているお二人と一緒に歌を歌うことができて、いつも感謝しています。これからも、皆さんに3人の素敵なハーモニーを届けられるように、自分なりにがんばっていきたいと思います」

戌亥「本当にたくさんの人が一緒にこのライブを作ってくれたのですが、今日、いろいろな人たちが観てくれて初めて、このライブが完成したんじゃないかなと思っています。今日、ものすごく幸せです。みんなも日々、それぞれの生活を頑張っていく中で、明日からの活力に我々がなれていたら良かったなと思います。今日、我々もみんなからパワーをもらいましたから、またどこかでみんなに会えるようにNornis頑張っていきますので、これからもよろしくお願いいたします」

町田「今日の本番までにけっこうリハーサルを重ねてきてまして。その度に、上手く歌えないとか、上手く喋れないとか不甲斐ないところがたくさん出てきました。でも、その度にメンバーの二人や、たくさんのスタッフさん、ストリングスやバンドのメンバーさんに励ましていただいて。今日、本当に楽しくライブすることができました。そして、いつも応援してくれているたくさんの方々のおかげで、我々はこうして舞台に立っています。ありがとうございます。Nornisは、これからもいっぱい歌っていきたいし、もっとたくさんの人に知ってもらって、さらに愛される大きなユニットになっていきたいので、これからも何卒、よろしくお願いいたします」

歌に対する真摯な思いや、周囲の人々やファンへの深い感謝を真剣に語った後、戌亥さんが「次でマジに最後」と話すと、客席からは「え~」という残念そうな声が聞こえてきた。この反応が楽しかったのか、戌亥さんからの提案で、町田さんと朝日南さんも「次で最後の曲です」と繰り返し、客席の反応に喜んでいた。

MCを締めくくったのは、戌亥さん。

「最後の曲、みんな思い思いに楽しんで、噛みしめて欲しいなと思います。また、会えることを願いながら、最後の曲、聴いてください。『Transparent Blue』

ライブタイトルにもなっている1stシングルは、もちろんNornisを代表する曲。サビでは3人の歌声が綺麗に重なるのだが、比較的ソロパートが多く3人の歌声の個性や魅力の違いも存分に堪能できる楽曲だ。3人の歌声のいろいろなバリエーションを見せた後、最後、基本に戻るようなセットリストが面白い。1曲1曲、上手さや凄さのポイントが変わっていったことで、改めて3人のボーカリストとしての魅力や才能を思い知った。

最後、改めて念を押すように「また会おうね」とファンに約束をして、ステージから去った3人。もちろん、次のライブの開催はいつになるのか今から楽しみなのだが、それだけにとどまらず、もっと様々な場所でNornisの曲を聴いてみたい。この3人の歌声は、バーチャルとリアルの境界など軽々と越えて、どこまでも美しく遠く響いていくはずだ。

●セットリスト

  1. Abyssal Zone
  2. Daydreamer
  3. Through the glass
  4. 酔いどれ知らず
  5. 君の銀の庭
  6. Unchained(朝日南アカネ)
  7. 名前のない感情(町田ちま)
  8. 六道伍感さんぽ(戌亥とこ)
  9. 夜永唄
  10. PaⅢ.SENSATION
  11. シニカルナイトプラン
  12. fantasy/reality
  13. Goodbye Myself
  14. キャラクター
  15. White blossom
  16. Transparent Blue

●ライブ情報
Nornis 1st LIVE -Transparent Blue-
2023年3月15日(水)

(C)ANYCOLOR, Inc.

(TEXT by Daisuke Marumoto

●関連リンク
Nornis公式サイト