VRChat初心者は「JPチュートリアルワールド」へ行けばなんとかなる! 作者たましこ氏が語るVRChatの楽しみ方

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VRChat

2022年になり、一般メディアも取り上げ始めてますます注目度が高まるメタバースの世界。「VRChat」はそのメタバースの一つで、PANORAでもイベントやアバター、ワールドなどの魅力について何度も記事で取り上げてきた。

一方で、VRChatはゲームのチュートリアルのように手取り足取り遊び方を教えてくれたり、達成する目標が設定されているようなわかりやすさがないため、知り合いがいない状態で始めて、その楽しさや操作方法がわからなくて挫折してしまったという方もいるはず。なんでもできるという高い自由度が、かえって難しさを感じさせてしまうこともある。


そんな、何から始めればいいのかわからないという初心者のためのワールドが、今回取材した「[JP]Tutorial World」(以後、JPチュートリアルワールド)だ。

このワールドに書かれている操作方法や英語のUIについての説明はとてもわかりやすく整理されていて、VRChatに慣れている人でもたまに行くと、新しい使い方を知るきっかけになることがある。

本記事では、ワールド作者のたましこさんにインタビューし、初心者に向けてVRChatを楽しむコツや、VRChatの思い出話、なぜこのワールドを運営し続けているのか語ってもらった。

取材したことで、VRChatの楽しみはいろいろある中で、他人とコミュニケーションをとることや、フレンドを増やしていくことの楽しさを大事にしたいと考えるたましこさんの美学がつめこまれたワールドであることがわかり、非常に楽しく、そしてためになる機会となった。これからVRChatを始めようと考えている方や、楽しめなくて挫折してしまった方にぜひ読んでほしい。


JPチュートリアルワールドとは

簡単な日本語クイズに答えて中に入ると、VRChatにまつわるさまざまな設定項目のブースが並んでおり、機能の説明や操作方法が日本語で書いてあるというワールドだ。

VRChatは海外のサービスなので、当然のようにUIは全て英語。ある程度英語に慣れている方なら問題ないかもしれないが、英語でたくさん書かれているだけでハードル感じてしまうこともあるだろう。

そんな日本語へのローカライズを個人がやっているというのだから驚きだ。

今回、この取材の発端となったのがワールド作者たましこ氏によるツイート。

私はこのツイートを見て、古くからあるしみんな一度はお世話になっているワールドなので、まさか取材されたことがないとは思わず、すぐに連絡をとることにした。特に初心者にとってハードルが多いVRChatの楽しみ方やつまずきポイントを伺うことにした。

これから始める初心者はもちろん、身の回りにVRChatをはじめたいという方が現れたときは参考になる内容だったので、ぜひ読んで欲しい。


誰しもすんなり始められない? 初心者のつまずきポイントとは

JPチュートリアルワールド作者・たましこ氏

──VRChatを初めてみたけれど長続きしなくて辞めちゃったという方も多いと思います。初心者向けのワールドを運営していろんなケースを見てきたたましこさんから見て、どういうところに「つまずきポイント」があると思いますか?

たましこ まず、日本人に会えないですよね? これは「VRChatっていうのが面白そうだからやってみよう」って言って始めた人のうち、100人中90人くらいは感じるんじゃないかと思ってるんですけど、日本人がいるワールドって調べないと出てこないんですよ。例えば、「Japan」で検索して上位にくるワールドに日本人はほとんどいないんです。

「日本人がどこにもいないじゃん」って挫折するかしないかが、一番のつまずきポイントだと思います。VRChatをやってみてすぐ辞めたけどまた始めたという方に「なんであのとき辞めたんですか?」って聞くと、「あのときは日本人に会えなかったんですけど、改めて調べたらJPチュートリアルワールドというのがあるって聞きました」みたいな答えが返ってきたり。ありがたいことに、「日本人 会い方」とグーグル検索すると、このワールドが出てくるんです。

──わかります。私も最初に始めた時に一度それで挫折して、数ヵ月放置したことがあります。つまずかないために日本人と出会うというのは大切ですね。

たましこ JPチュートリアルに来たら一人で見て回るもよし、あるいは誰かに話しかけられて一緒に見て回るもよし。もしそうなったら、あとは基本的に話しかけてくれた方が隣でわからないことを教えてくれるので、言ってしまえばここの説明はもしかしたら九割くらいは必要ないかもしれないですね。わからないことは隣にいる、できたばかりのフレンドに聞けばいいので。

今、初心者の方が来たとしたら、来てしまえばなんとかなるんですよ。ここに来たら他人がいて怖くて挫折したという方ももちろんいると思うんですけど、基本的にはVRChatという場所は「人と人がコミュニケーションするゲーム」だと思ってるので、もし他人が怖くて挫折しまったのなら仕方ないかなと思うんです。

ワールド内に掲載されているイベントカレンダー

一人で見て回って、「こういうイベントとかあるんだ」とか、イベントをきっかけに「こういう知り合いができた」ということがあればその方と遊ぶもいいですし、ここを案内してくれた方が自分のコミュニティやイベントに連れてって行っていただければちゃんと楽しめる。このように、VRChatを始める流れというのはいろいろあると思うんですが、僕はその導線にはあんまり関わりたくないんです。VRChatはある人に言わせればイベントを中心に遊ぶゲームですし、別のある人に言わせればパブリックで知らない人としゃべるのが楽しいゲームだと言います。それぞれ言っていることは全然違うけど、どっちもありだと思うんですよ。

なので、もしもJPチュートリアルワールドの最後に「じゃあイベントに参加してみよう!」と書いてしまうのは良くないなと、作った当初からずっと考えています。

僕としては、つまずきポイントで挫折しないために「とりあえずJPチュートリアルワールドに来てください」っていうのが答えです。

*パブリック:VRChatにログインしていれば誰でも入れる設定のインスタンスのことです。
*インスタンス:ワールドはコピーして複数立てることができ、その1単位をインスタンスと呼びます。


JPチュートリアルワールドに来るたびに発見がある

──たましこさんはここによく、いらっしゃるんですか?

たましこ ログインしている時は基本的にパブリックに入っているのですが、ここに常駐してるわけじゃないですけど割といます。「なんでよく行くのにワールド制作者に会えないんだろう?」っていう人もいるんですけど、実はもう一回同じインスタンスにはいるけど誰も話しかけないし、そもそも気付かないで通り過ぎるみたいなのがめちゃくちゃあるんです。「いや君、前いたよ。実は少し喋ったよ!」みたいな人もいます。自分から「このワールドは俺が作ったんだぜ!」って言わないので、あんまりわからないんですよね。

──自分が作りました!って言いづらいですよね。VRChatという場所は自由に楽しめる場ですが、何年もVRChatをやってるけど普段はあまり他人と関わらないで写真を撮りまくって遊んでいる方とかも全然いますよね。

たましこ いますねえ。

──そういう楽しみ方をするにあたっても、例えばカメラの使い方をJPチュートリアルワールドを見に来ると、「こうやってこの機能を使うんだ」みたいのが出てくる時ってあると思います。

たましこ 実はあんまり知られていなくて、ここには書いてない小技とかもあります。例えば集合写真を撮ることがよくあると思うんですが、その時にみんな撮影ポイントに行ってカメラの位置を見ながらよし!いい感じ!って言って置いてくるじゃないですか。それって実は割と簡単にできる小技があるんです。

撮影ポイントに来たらとりあえずレンズだけ置いてすぐ戻るんですよ。向きはどうでもいいのでとりあえず置くんです。それから、集合写真の中心点に立ちます。カメラに「Behavior」というメニュー項目があるんです。これはカメラどこを向くのかという設定項目なんですけど、これを「Look at me」に設定して離すと、自分がいる方向を向いて止まってくれるんですよ。これをやると、集合写真の中心点に水平にカメラを置けるんです。便利なんですが、なかなか流布されてないんです……っていう感じで、実は来るごとに新たな発見があったりするかもしれません。特にカメラは、機能が増えることが多いので。

──そうですね、標準のカメラにフォーカスが実装されたときは本当にびっくりしました。

たましこ 以前は専用のカメラシステムを買った人しか深度をいじれなかったから、操作する動きで「写真超うまい人だ!」ってわかりましたもんね。

──懐かしいですね。確か、もう二年前とかなんでしたっけ?

たましこ 二年前……。僕の心に傷が一個増えました。


VRChatが辿ってきた歴史 あなたも歴史の目撃者になれる

カメラの話をしていてカメラ機能のアップデートがいつだったのか気になったところ、たましこ氏が誕生日の記念に制作したというJPチュートリアルの歴史を辿れるワールドに行くことになった。

現在のJPチュートリアルワールドが3代目とのことだが、初代と2代目のワールドが保存されている。たましこ氏によると、どのJPチュートリアルを懐かしいと感じるかで始めた時期がわかるという。

ある程度VRChatに慣れている方同士で訪れてみると話題作りになるかもしれない。

お着がえした たましこ氏

たましこ というわけで、「とあるワールドの歴史」です。歴代のJPチュートリアルワールドのレイアウトが全部並んでおります。多分こっちに来ると懐かしいって思うかもしれないです。

2代目JPチュートリアルワールドへ移動!

──これこれ、これです!この紫のワールドはすごく見覚えがあります! 当時を思い出しました!

たましこ ですよね。こんな感じですよね! その当時のスクリーンショットこれですよ。ネームプレートとかすごく懐かしくないですか?

当時のスクリーンショット

──完全に当時を思い出しました。

たましこ この時の2代目ワールドに変えたばかりのときは、アクティブユーザー数が0か1くらいだったんですよ。今は人が定住してるんですが、その理由もちゃんとあるんです。

当時、Quest単体でVRChatをプレイできるようになったタイミングだったんです。

Quest勢の方々

ここに載っているのは全員Quest勢なんですけど、その方たちがQuest仲間を探して常駐するっていうことがあって、そこからその方たちがPCに移行したり、その方たちがフレンドを作って戻って来たりみたいなのをどんどんやっていくとあら不思議! JPチュートリアルワールドに人が定住するようになりましたよ!と。実はそういう歴史があったりします。

──VRChatの歴史がありますね、ここには。今すごく懐かしい気持ちになりました!

たましこ 懐かしかったですよね。これは初代なんですが、この画像を見たことありますか?

初代JPチュートリアルワールドの画像

──ないです。

たましこ これは僕のツイッターの固定ツイートの、チュートリアルワールドを最初に作ったときのツイートの写真なんですけど、これがここにあります。これが一番最初なのでワールドに細かいミスが物凄く多くて。いろんなフィードバックをもらって改善するのを頑張りました。

右から左にすすむ、当時のままのレイアウト

例えば現在のワールドだと左から右に読んでいくじゃないですか? 初代は右から左に読んでいくんですよ。日本語の文章は左から右なのに、導線は逆なんです(笑)。

床に羅列された年表とたましこ氏

こっちが本題ですね。自分がツイートしていたアップデート内容を全部羅列したものがあります。カメラは最初の更新が1月7日に入っていますね。定期的に全部作り直してるんですが、最初の作り直すポイントはここですね。2019年の6月29日に「全て作り直しました」っていうなかなか頭の悪い文章が書いてあります。大体10ヵ月経ったらまた全部作り直していますね。実はここ、定期的に作り直しているんです。

──さまざまなアップデートに対応していかなきゃいけないのは大変ですよね。

たましこ もう気合でしたね、当時は。今もなんですけど。2021年の7月あたりでまた全部変えまして、今のレイアウトに近い形になりました。壁が黒と紫の二色になったあたりですね。で、ここから今に向かってどんどん今に向かっていきますよ、っていうところです。「こんなワールドがありました」という歴史を書き連ねたら、意外といっぱい出てきて面白かったっていう話でした。

──なんだか本当に、質量を感じますね。こうしてVR内で床に書かれた履歴を見ると、書いてあるものを情報としてだけじゃなくて肌感覚で感じられるのが、すごくいいですね。

たましこ 奥の方は文字がつぶれて読めないですよね。なんか遠くまで来たんだなという気がします。このワールド作り直しを何回もやっていると「大変じゃないの?」って話を結構されるんですけど、やり方を工夫すれば実はそんなに大変じゃなくて。ここに書いてあるんですけど、今のワールドのパーツってこれしかないんですよ。これをブロックのように組み上げて作っているんです。

壁のパーツは持てるようになっている

──あっ、これ持てるんですね!

たましこ 持てます!「君だけのJPチュートリアルワールドを作ろう!」ということができます!

──すごい面白いです。パーツを限定するぐらいの割り切りが長続きの秘訣なのかもしれないですね。

たましこ 積み重ねてきたノウハウです(笑)。年表を見て改めて考えると、設定項目ってすごい増えましたよね。

──すごく増えていると思います。度々増えるんで、あの機能ってどこで設定できたんだっけ?と、度々わからなくなります。

たましこ 大きいアップデートが来たタイミングで始めた初心者の方に「僕と一緒に見て周りましょうか」って案内すると、二人して「へえ~そうなんだ、ここはこんな感じなんだ」みたいに新しいVRChatの操作を理解しながら進んでいくような。一緒に勉強する流れが生まれるんですが、それが結構面白いんですよね。

「ここの項目、昨日まで出来なかったんですよ」みたいな説明をすると、自分で説明しながらすごいなって思います。ゲームが更新されているリアタイ感がすごいなと。

──リアルに更新されているゲームをひたすら攻略していくんですね。

たましこ はい、ここはリアルタイム攻略本です。


初心者は「誰かと会ってほしい」VRChatを続けやすい条件とは

たましこ ワールド製作者なんて誰も見ないよと思いつつ、最近は知名度が上がってきたらしくて。例えばフレンド+のワールドに行っても、「あれっもしかして! 違ってたらごめんなさいですけど……!」みたいな感じで声をかけてくれる方も増えてきたんですよ。

*フレンド+・・・インスタンスの設定のひとつで、自分のフレンド及び、同じインスタンスにいるフレンドのフレンドも一緒に入れる。

──VRChatを初めてから続けてる人が、どんどん増えてるということかもしれないですね。

たましこ そうですね。辞めてしまう方って結構いるんで。案内してるとわかるんですけど、辞めてしまう方はは定着しないというか、自分に向いてないんだなと感じてあきらめたと思っています。VRChat以外のゲームも全てそうだと思うので、そういうものだと割り切っています。

それでもここに居付く人が増えてると思うので、日本人ユーザーが増えているはずです。JPチュートリアルワールドの一日に入る平均人数も年々増しているので、たまにカウンターを見に行ったりするんですけど、今日こんなに来てる!とニコニコしています。

平日夜に合計155人いるJPチュートリアルワールド(メニュー左上)

──当たり前かもしれないですが、人がいっぱい来ていると嬉しいですか?

たましこ 嬉しいですねえ。いかんせん人が入れば入るだけ出会いがあるっていうことは間違いないですし、このゲームの趣旨そのものでもありますし。あと単純に人の流動性が高いのがパブリックの一番の醍醐味だと考えているので。話している相手が一定になりづらいと面白い新しい話題がどんどん入ってくるみたいな。固定メンツが毎回毎回同じ人と話すというよりも、固定メンツとプラスアルファで知らない人が2、3人いるっていうのが一番面白い状態なんじゃないかなと思っています。そういうのを続けているとフレンドの輪が大きくなるので。

──本当に始めたばっかりで友達がVRChat内にいない方にとっては、知り合い作りは大変ですよね。

たましこ 初めてここに来たっぽい方がいて「もしかして今始めたばっかりですか?」みたいに話しかけてもらえれば、その方づてにいろんなフレンドさんと交流できたりとかできるし、一人で回った時にこのゲームはどうするんだろう?って調べることができればイベントに参加するなり他のパブリック集会所に行ったりとかできるんですけど、一人で回って終わっちゃうと、そこでVRChatの体験も終わっちゃうんですよ。

──わかります。へーそうなんだ! で終わっちゃいそうですよね。

たましこ これは本当にあった怖い話なんですけど、海外のパブリックで遊んでいるときに日本人の方がいて。お互い日本人で日本語が通じるとわかって意気投合したら「実はJPチュートリアルワールドっていうところを一周してきたんですけど、今、初めてフレンド機能を使いました」っていうことがありまして(笑)。

──「私です」みたいな(笑)。でも、その方はなかなかコミュニケーション能力の高いタイプですよね。パブリックに行ってなんとなく遊べちゃうみたいな。

たましこ コミュニケーション能力最強だったと思います。レアなケースかもしれませんが、やっぱりVRChatを始めるならできれば「誰かと会ってほしい」っていうのは僕の最初からの願いですね。

VRChatを始めようとしている知り合いがいたとしたら「JPチュートリアルワールドに行くといいよ」って終わっちゃうことが多いと思うんですけど、一緒に行ってあげた方がいいよね、と思っています。

というのも、例え話って大事なんですよ。例えばその方がMMORPGをやったことがあるとして、「この機能はあのゲームで言うところのあれだよ」みたいな話ができれば、説明自体はほとんどすっ飛ばせるので、その方のことをよく知ってる人が案内した方がが絶対にいいはずなんです。

──そうなんですよね。わたしもJPチュートリアルワールドを教えたままにしたことがあるので、身につまされます。

たましこ こっそり始めて、こっそり引退する方もいるんですよね。「前にやったけど面白くなくて」って言われたり。どうして僕に言ってくれなかったの!?ってびっくりします(笑)。


たましこ氏は何故、JPチュートリアルワールドを更新し続けるのか

──Twitterプロフィールに、ワールドを管理するスプレットシートがあるのを見かけて感心しました。

たましこ 見てしまいましたか(笑)。途中から、ワールドについて多方面からメールが来たり、口頭で伝えられたりしてわかんなくなっちゃって。それで、スプレッドシートを用意して書いてもらったらすごいことになってしまったんです。一回ご縁があって文章を本職としている方にチェックしてもらったら、2、30個修正が出てきて、それをヒイヒイ言いながら直して。だから割と、皆さんの協力のもとに成り立ってるワールドなんです。

──自分で頑張ってもいるし協力してもらってもいるけれど、非営利的な活動じゃないですか。なかなか続けられることではないと感心してしまうんですけど、なにか強い意志があるんですか?

たましこ 強い意志が、僕にはあります! 僕が日頃思ってることなんですけど、多分このワールドを作るのがすごく向いているんです。なぜかというと、「初心者の人が何がわからないか」っていうのをずっと理解してるつもりでいるんですよ。

例えばVRChatを3、4年やってくると何がわからないかがわからなくなっちゃうんですよね、当たり前にやっちゃうので。例えば「あれ持ってきて」って言っても、初心者の方だと「わかりません。持つってどうやるんですか?」ってなるんですよね。

VRChatに慣れると「わからない人がわからないということ」をみんな忘れてきたり、「もうこれみんな知ってる説明しなくてもよくない?」みたいな意見も出てくるんですが、「いや始めたばかりだと絶対知らないって」みたいな。そういうのって多分わかる人にしかわからない情報だと僕は思っています。

それから、これは自分の信条なんですけど、他のことにあまり肩入れをしないというか。最初にもお話したように、イベント中心のVRChat生活をおすすめしないとか、アバターを置いてある場所も作ってるんですけど、「かわいいアバターになろう!」とかは書いてないんです。使用するアバターはイケメンがいい方もいればロボがいい方もいるし、人それぞれだと思うので。

仮にですが、僕がこのJPチュートリアルワールドの更新をやめて、次に同じようなワールドを作る方がいたとして、例えばその方がイベント中心に遊ぶ方であれば、最後に「イベントに参加しよう!」みたいな話を書くかもしれません。そうすると、日本人VRChatユーザーの人口の分布がどんどん偏っていくと思うので、「そういうのを自分より維持できる人っているのかな? いや、いなさそうだな」っていう、勝手なうぬぼれで続いています。これは自覚しているのですが、僕のうぬぼれです。

──ご自分で「うぬぼれ」とおっしゃるのは面白いですね

たましこ 僕はもう文句を言われても何も感じなくなっちゃったので。

──いろんな批判を受けたこともあったんでしょうか?

たましこ 批判は色々ありました。特に日本語クイズを実装した時は凄かったですが、「鏡の前に人がたむろして嫌なんですけど」とかいう話はよく受けました。あとめちゃくちゃ言われたのが「ジョインの記述が無い」です。これは日本人あるあるだと思うんですけど、日本人ってフレンドにジョインすることがすごく多いじゃないですか。なので、よく使う項目だからもっと強調すべきじゃないかって言われるんですよ。

でも僕はフレンドにジョインしてなくて、ほとんどパブリックを眺めて今日はどのインスタンスにしようかなって入ってるんです。とはいえ、すごい数の意見をもらったので、「書くかあ」って書いて終わりみたいな形になりました。

そもそもパブリックワールドなんで、何してもいいんですよ。僕なりの答えを持ってしまった以上、特に気にならなくなりました。

──ある地点に到達したんですね。

たましこ やっぱりそう思います? 意見が来たらちゃんとその意見に対して返答を持てばいいし、意見が正しければ直すし、それこそさっきのスプレッドシートである意見に対して「これはこういう理由で対応しません」という理由で残してるのもあります。

──確かに「対応しません」って書いてあるものもありますね。

たましこ それはちゃんと自分が意思を持ってやっていないことですし、公開しているものなのでいくらでも出してもらってもいいです。

日本語クイズ

──日本語クイズはいつ始まったんですか?

2021年の7月21日のアップデートです。現在のレイアウトになった時ですね。当時は人種差別だとか言われたんですよ。でも、クイズワールドでクイズ間違えた方が「これは人種差別だ」って怒るかな?って思ったのと、ここはそもそも集会場ワールドではないので。そもそもの前提が違うんで、別にいいかってなってそれっきりです。

でも今と比べると、当時は一般的に迷惑な人たちが多かったんです。特に現代って、アメリカの子供達はクリスマスにQuest2をもらうような時代なので、そこはお国事情が違うんです。

──色んな時間にログインするんですか?

たましこ JPチュートリアルワールドを作った当時は学生だったので入っていましたが、今は時間があるときや、土日とか暇なときですね。

このワールドを最初に作った時が学生だったからできたんだろうなって今は思っています。今、同じようにイチから作れって言われたら無理です。

──結構気力がいりますよね。更新ならできるのかもしれないですけど、本当に最初のワールドを作るっていうところは大変ですよね。

たましこ もう完全に今は保守エンジニアですね。時々リプレイス作業を挟んでずっと保守してるみたいな。


──今ではずっと保守を続けつつ、色んな人に指摘などを受けて修正するのを続けているという形ですか? 決して簡単なことではないですよね。

たましこ でも今はもう無償でやってるわけではないんです。支援いただけてることもちょっとずつ増えてきたので、積み重ねなんですけど入り口の支援者の皆様っていうパネルだいぶ文字が細くなってきたんですよ。

支配者パネルと たましこ氏

──おお。歴史がそこにもあるんですね。

たましこ 「本当に感謝してます」って口で言われるのも嬉しいですけど、やっぱりご支援いただいたりすると嬉しいです。それからたまにあるんですよ「私たちチュートリアルワールドで知り合って結婚したんです!」みたいなことが。

──そんなことが「たまに」起きるんですか?

たましこ 僕が知ってるだけで、6件あります。「それって僕のおかげなの?でも僕は出会いないぞ!」みたいなことを言って笑ったりして。まあ、それは余談なんですけどね(笑)。やっぱり人と人を繋げる場としても維持しなきゃなっていう、ちょっと高尚な思いがあったりします。

たまに「〇〇なワールド製作者インタビュー」みたいなのを見ると、そういえば取材されたことないなと思ってツイートしたんです。それで今回取材を受けることになったので、ありがとうございます! 僕はあんまりなかなかメディア露出がないので。

──露出がないにもかかわらず、ワールドが盛り上がってるっていうのはすごいと思います。支援ってというのはpixivFANBOXなんですね。

たましこ そうですねサブスクみたいな形で。毎月更新されるものですが、あくまで一回でも支援していただければ希望があればここに書くという形を取ってるんですけど、僕にとっては支援していただけたっていうこと自体がとてもとても尊いことです。

──私もVTuberを応援してたりするので、pixivFANBOXで毎月いくらか支援しているんですが、いつでも解約できるとは思いつつ、心から応援したいってならないとなかなかpixivFANBOXに登録できないと思うんですよね。

たましこ この方たちに言わせると、「利用料」とか言われるんですけどね。
ちゃんと自分たちが支援しないと潰れちゃうんで。ここに書いてある名前の数は間違いなく僕がこのワールドを続ける原動力です。

VRChatの日本語化が来るっていう話があるじゃないですか。もう作業の山ですね。全部作り直しますし、レイアウトも全部変わります。

──そもそもUIが英語でわかりにくかった部分が日本語になるというところで、初心者にとって遊びやすくなると思うんですけど、今回お話していてUIや使い方よりも、日本人に出会えないというところが一番のハードルとおっしゃってたのはまさにそうだと感じました。なので、これからもずっとJPチュートリアルワールドが存在し続けて欲しいっていう気持ちです。

たましこ 背負うものが一つ増えましたね! 僕は色々なものを背負って戦っているみたいな状態なので。

──背負うものが重いというのは見てわかる一方で、どうしてそれを個人が背負っているんだろう?っていうところが取材前は謎だったんですが、強い覚悟と芯の強さみたいなのを感じたので、なんとなくわかった気がします。
コミュニティに名を刻みたいというような気持ちよりも、本当に意義を持っていて、なんなら「それのために俺は死ぬ」みたいな潔さを感じました。

たましこ  名を刻みたいだけならこのワールド作る前に「Voxel Familiars」っていう団体のトップだったり、イベントとかやってたりしてたんでそれで十分なんですよ。それに、有名になりたくてやるならコスパ悪い話ですよ。

──おっしゃるとおりですね。話していて、長く続けてくださるだろうなっていう安心感を覚えました。

たましこ  伊達に4年間続けてきた訳じゃないですからね。

テレビでもメタバースについて紹介される機会がどんどん増えている中で、VRChatも初期はもともと情報感度の高いユーザーが集まる場だったが、Quest2の発売を機に興味を持つ方が増え、ユーザーが多様化していった流れがある。一日のほとんどを過ごすヘビーユーザーがいる一方で、VRの操作に慣れていない方やふだんはゲームをしない方にとってはわからないことの方が多い。

そんな初心者の方の入り口となるチュートリアルを更新し続けるたましこ氏との取材はとにかく楽しく、情熱に燃えるクリエイターというよりは、世俗から離れた師範代のような印象を受けた。

たましこ氏と記念写真

余談だが、最後は教えてもらった「Behaviorを使ったカメラセッティング」で記念写真を撮ろうと思ったが、ちょっとコツがいるようでうまくいかず、Flyng機能で地味に位置を調整しながら撮影した。 今後も遊びながら、Behaviorを使いこなして写真を撮れるようになりたいと思う。

(TEXT by ササニシキ

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