MAHA5JAPAN総合プロデューサー・Edy氏に聞く インドネシア発のVTuber事務所が目指すもの

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PANORAでも何度か取り上げたことがある「MAHA5JAPAN」(マハパンチャジャパン)は、発祥がインドネシアという一風変わったVTuber事務所だ。2019年にインドネシアに設立された本家「MAHA5」が同国内でトップシェアを獲得したのち、2021年に日本で事務所を開設。VTuber文化が最も発達した国であり、競争も激しい日本であえて勝負する意図はどこにあるのか。MAHA5・MAHA5JAPAN総合プロデューサーのEdy氏に話を聞いた。


本家MAHA5がインドネシアでトップを獲るまで

──MAHA5JAPANの特色は、やはり「インドネシア発のVTuber事務所」であることかと思います。先にインドネシアに「MAHA5」というVTuber事務所があって、次の展開先が日本なんですよね。どういう経緯があったのでしょうか?

Edy 私はインドネシアのMAHA5の立ち上げから関わっているので、まずその話からしましょうか。私はもともとIT企業に勤めていたんですが、ずっと起業したいと考えていたんですね。それで、あるとき会社を辞めてくすぶっていたときに、以前から知り合いだったMAHA5の代表──当時はまだMAHA5は影も形もない頃ですが──に起業を考えているという話をしたら、「インドネシアで事業をやるんだけど手伝ってくれないか?」と声をかけてもらったのが始まりです。それが3年くらい前でしょうか。

ただ、その時はVTuber事業は始まっていなくて、手掛けている事業のひとつにVR関連があるだけでした。その分野に色々と関わっているうちに、VTuberの事業としての可能性に気づいたので、MAHA5を立ち上げて本腰を入れるようになったのが2019年です。以上がザックリとした流れです。

本家MAHA5のWebサイト

──VTuberのどんなところに可能性を感じたのでしょうか?

Edy 当時日本ではすでに9000人近いVTuberが活動していたんですが、インドネシアでは確認できた限りだと10人いかないくらいでした。でも、現地でもいわゆるオタクの市場があることはわかっていて、自分たちには現地で培ったビジネスの感覚もあるし、本気を出せば1番を獲れるんじゃないかと考えました。

キズナアイさんに始まる日本での盛り上がりを私もよく見ていたので、これはインドネシアでもいけるぞと。それに、インドネシアの若者たちに「オタク文化を自国で育てたい」という熱量があるとも感じていたので、トライする価値はあるだろうと思いました。

──当時は現地のVTuberが10人もいない中で、ニーズはすごくあるという、いわば需要に供給が追いついてない状態だったわけですよね。

Edy はい。日本のVTuberのコンテンツがかなりインドネシアからも見られていました。

──なるほど。そのニーズに関して少し詳しくうかがいたいのですが、インドネシアの若者たちから、日本のVTuberあるいはオタク文化ってどういう風に見られているのでしょうか?

Edy インドネシアから見た日本は、VTuberだけでなく漫画とかアニメも含めた「オタク文化の震源地」だと思います。インドネシアの人たちって、日本のアニメをものすごくよく知っているんです。それこそ「ドラえもん」とか「クレヨンしんちゃん」などの超メジャー作品には幼少期から触れているし、深夜帯に放映されるような大人向けのアニメの類まで、本当に良く見ています。その延長線上に、近年VTuberという新しいカテゴリーが立ち上がってワイワイ盛り上がっているという感じですね。インドネシアのオタク文化の愛好者にとって、日本は「聖地」であり、抱いている感情は「憧れ」ではないかと思います。

──よく海外で日本の漫画やアニメが支持されているという話はよく聞きますが、インドネシアでもそうなんですね。インドネシアは若年層の人口も多いし、市場としての魅力も大きそうです。

Edy そうですね。ただ、これは大っぴらには言いにくいことなんですが、今、そうしたカルチャーを支えているのは海賊版サイトなんです。みんな、アニメも漫画もほぼ海賊版サイトで入手しています。有志が勝手に英訳を付けて配信しているものが流行している状態です。

──日本もインターネットの普及期はそんな感じでしたよね。

Edy 海賊版がはびこる理由は、一番大きなものは所得水準だと思います。確かに経済はすごいスピードで発展しているんですが、まだまだ途上という感じで、インドネシアの最低所得って首都ジャカルタで月給3万5000円くらいなんですよ。物価が安いとはいえ、家賃と食費と光熱費を払ったら、自由に使えるお金ってそんなになくて。だから、コンテンツに対する需要はすごくあるんだけれども、そこにお金を落とせるだけの余裕がある人となると、かなり少ないのが現状です。日本でいま流行しているサブスクの動画配信なんて、インドネシアでは加入しているひとはほんの一握りだと思います。

──そうなんですか。インドネシアは経済発展が著しい国として紹介されることが多いですが、平均的な数値で見ると、コンテンツにお金をかけられる人はまだ少数派なんですね。

Edy 一方で、そんな中でもカルチャーを育てようという動きもちゃんとあって。コロナ禍の前まではコミケのような展示即売会も毎年開催されていました。規模としては体育館2〜3個分くらいのかわいいものですが、個人だけでなく企業ブースも入っていますし、同じ会場内で日本からダンスパフォーマンスチームを呼んでダンスをステージで踊ってもらったり、そこに合わせてDJプレイをやったり、ライブドローイングをやったり、ステージ前では皆音楽に合わせて踊ってたりと結構カオスな感じですけど、面白いですよ。

ちゃんと原作者にリスペクトがあるし、単にコンテンツを消費するだけじゃなくて、自分たちでオタクカルチャーを広げていこうという動きはありますね。

──いいですね。そういう、文化が未成熟でカオスな時期って、独特の勢いがありますよね。

オンラインでの取材に応じてくれたEdyさん(顔はTwitterで使用しているハムスターアイコン))

インドネシアの次は「発祥の地」日本へ進出

──話は戻りますが、MAHA5の設立後は順調だったんですか?

Edy そうですね。事務所の立ち上げ時に7人のVTuberを育てることになったのですが、紆余曲折を経て目論見通り数字も伸ばすことができ、多くの方に楽しんでもらえる状況を作ることができました。

実際に、インドネシアのVTuber事業としては2020年頃には1番を取ることができました。ただその後、ご存知の通り日本発の大手事務所2社に猛追されまして、現在は2社とともに市場を開拓している状況にあります。

──インドネシアで1番になったときに、次の一手としてMAHA5JAPANを立ち上げることになったわけですか?

Edy はい。現地でのシェアの広がりを感じた時点で、「ここからどうする?」みたいな話は当然出まして。やっぱりVTuberをやるからには「本場」で勝負したいよねという話になり、日本進出を決めました。本家MAHA5は一定の成功を収めていますが、MAHA5JAPANのほうはまだこれからというのが現状です。

──日本での展開についてもう少し聞きたいのですが、先ほど言われたように、日本には強大な事務所もあるし、それ以外の中小の事務所や個人勢と言われる人も入れると1万数千人のVTuberがいますよね(2021年10月時点で1万6000人以上)。まさにレッドオーシャンの市場だと思うのですが、MAHA5JAPANとしてはそこでどう展開していこうと考えておられますか?

Edy そうですね……。具体的なプランについては、現時点ではお伝えできないんですが、ただ、どれだけ大きな市場でも、こういう事務所の本質ってあんまり変わらないんじゃないかと我々は考えています。

──本質と言うと?

Edy VTuberという存在がだいぶ世の中に認知されてきて、色んなジャンルのタレントが現れて、それぞれにファンが付いてという状況で、これから新規のお客さんが急激に増えることはないだろうというのが日本の状況だと思います。個々のVTuberがそれぞれのジャンルの中でシェアを奪い合っている状態という感じですね。

そういう市場でどうやって勝っていくかですが、所属VTuberとよく話しているのが、結局「どれだけ視聴者の皆さんのことを思うことができるか」が重要だということです。視聴者のことを思って活動をしていればチャンスは必ず巡ってくるし、本気で取り組んでいれば絶対に人は集まってくると。

もちろん、そういう精神論だけではなくて、我々にはそれにプラスして、本家MAHA5の運営で培った知見がある。タレントが持つ熱意と、事務所としてのノウハウ、その両軸で動くことで、ブレイクするチャンスは必ずあると考えています。

──なるほど。熱意だけあってもノウハウがないとダメだし、逆にノウハウだけあってもそれを生かすために熱意が必要というわけですね。

Edy 根本の部分の考え方はそういうことですね。とはいえ一朝一夕にとはいかないので、日本の諸先輩方に学ばせていただいています。

MAHA5JAPAN設立時に実施した一期生のオーディション

──具体的な戦略は秘密とのことでしたが、もう少しだけ突っ込ませてください。インドネシア発、あるいは海外発の事務所ということで、MAHA5JAPANに強みがあるとしたら、どんなことでしょうか?

Edy やはり国と国をつなげられること、言語の壁を越えられることがVTuberの魅力だと思っています。ただ、言語の壁ってやっぱり大きいんですよ。日本語のコンテンツを求めている人の多くは、海外の言葉が入ってきた瞬間にメンタルブロックをかけてしまうところがあるなと思っていて。

──日本にもキズナアイさんをはじめ、海外進出を図っているVTuberがいたり、海外発のVTuberが話題になったりすることもありますけど、まだまだ少数派ですもんね。

Edy そうですね。そういう状況を踏まえて、自国以外のものが許容される文化であったり、異文化が自然に融合するような雰囲気作りがしたいと我々は考えています。どうしたら言語の壁を越えてVTuberというコンテンツを楽しんでもらえるのか。インドネシア語と日本語がチャット欄で共存するような文化を作り上げることであったり、演者が話しているのは日本語だけどインドネシアのリスナーも楽しめるようにするにはどうしたらいいかとか、そのあたりを具体的にどう進めていくのかが、我々のミッションです。

自国内だけ向いているほうがハードルは全然低くて、両方合わせてとなると途端に難しくなる。今はインドネシアと日本だけですが、最終的にはいろんな国に事務所を展開して、インドネシアや日本もその1つというかたちになるのが理想です。

──「MAHA5インターナショナルの日本支社」みたいな感じですよね。インドネシアの次の展開として、米国や中国も市場としては魅力だと思うのですが、あえてレッドオーシャンの日本でというのは、何か理由があるんでしょうか?

Edy 選択肢としては色々考えましたが、やはり日本はオタク文化やVTuber文化の発祥の地というのが大きいですね。日本が登竜門だと感じています。日本で成功できなければ世界に広げることもできないだろうと考えました。今はきちんと日本のファンに向けてコンテンツを発信することで、日本の人たちにしっかりと受け入れてもらうことができるよう、タレントとともに挑戦中です。

──海外展開は見据えているけれども、起点というかコアの部分は日本に根差していて、海外展開はその次のステージでという感じでしょうか?

Edy そうですね。インドネシアで受け入れてもらえたように、本場の日本でも受け入れてもらえることができたら、さらにその先を見据えてきたいと考えています。

タレント育成の基本は「壁打ち」

──MAHA5JAPANの基本的なスタンスや方針についてうかがいましたが、より具体的に、VTuber事務所としてどういう活動をされているのかをうかがえればと思います。

Edy 今、MAHA5JAPANには設立時に実施したオーディションで集まった5人のVTuberが「一期生」として所属していて、あと「候補生」と呼ばれる準所属のような立ち位置のタレントが12名おります。ほかに、まだデビューを控えているタレントもいます。当面は彼らの成長をサポートすることに注力したいと思っているので、新規オーディションなどは考えていない状況です。具体的なサポート内容はタレントにもよりますが、基本的には「壁打ち」をすることを大事にしています。

──「壁打ち」というのは?

Edy 対話を通じてタレント本人が自身と向き合う時間を作ることを繰り返し行っています。彼らがVTuberとしてどういうことを表現していきたいのか、どうすればそれをたくさんの人に届けられるのか、どうしたら自分の魅力を伝えることができるのか……ということをしっかりとヒアリングします。そうやって彼らが自分の考えを言語化していくことで、今後の方向性を明確化していくことを「壁打ち」と呼んでいます。そのうえで、タレントが定めた方向に常に向かっていくことができるように、彼らの基盤を固めることを目的としています。

──なるほど。ちなみに「候補生」というのはどんな立場になるんでしょうか?

Edy まず一期生の5人は、オーディションでVTuberとしての才能や可能性を強く感じて採用を決めたメンバーです。「候補生」は残念ながら1期生の選考には漏れてしまったものの、どこかキラリと光るものを感じたメンバーです。

──いずれはレギュラーメンバーとして活躍してほしい人たちということですか?

Edy はい、そのとおりです。我々と一緒に挑戦していきたいと手を挙げてくれた子たちなので、自身の夢を実現するために事務所の資源をうまく使い、ともに成長していけたらと思っています。

最初のほうで、MAHA5JAPANの事務所としての戦略はあまりお話しできないと言いましたが、今は事務所としてのカラーよりも、個々のVTuberのキャラクターを浸透させるのが優先だと考えています。彼らの活躍が皆さんの目に届いていけば、「MAHA5JAPANはこういう事務所なんだな」というのが自ずと見えてくるのではないかと思います。

──現メンバーで一定の実績が出て、事務所としてのブランドが確立されてきたら、二期生以降の募集も実施するという感じでしょうか?

Edy もちろんです。

──ありがとうございました。MAHA5JAPANのメンバーの皆さんの活躍を楽しみにしています。

(INTERVIEW & TEXT by md)

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