「未来のメタバースはひとつじゃない」 DJ RIOさんが語るREALITY・100億投資のねらい

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ここ数ヵ月でインターネットでよくみられるようになった用語のひとつに「メタバース」がある。アバターの姿でインターネットを経由してひとつの場に集まり、言葉や身振りなどで交流するというサービスの総称で、VRでいえばVRChatやcluster、バーチャルキャストをはじめとするソーシャルVRのジャンルが相当する。

7月末、FacebookのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏がメタバース企業に移行すると宣言したのをきっかけにより注目を集めるようになった。国内ではグリーが8月6日、子会社のREALITYを中心にメタバース事業に参入して、今後2、3年で100億規模の事業投資を行い、グローバルで数億ユーザーの獲得を目指すと発表した(ニュース記事)。

では、グリーはメタバースがある未来はどうなっていると想像しているのか──? REALITYの代表取締役社長であるDJ RIOさんをインタビューしたところ、

・未来はメタバースが複数併存している
・メタバースがバズワードになったのは投資家の思惑も
・メタバースで生活できるかの鍵は「第三次産業」

といった非常に興味深い話を聞けた。DJ RIOさんがメタバースに可能性を感じた個人的な体験も語っていただけたので、まとめてお伝えしていこう。


「ポップカルチャー×匿名×エンタメ」な存在を目指して

──PANORAの取材領域でメタバースというと、ソーシャルVRが目立っております。10年、20年後に今の情勢がどう変わっていくのか、まずRIOさんの予想をお聞かせください。

DJ RIO(敬称略、以下同) 僕はメタバースは、いっぱいできると思っています。「レディ・プレイヤー1」の「OASIS」や「竜とそばかすの姫」の「U」のように、映画などでは何十億人が参加する超巨大サービスをひとつの会社が運営しているという背景設定が目立ちますが、現実はそうじゃなくて、大手は出てくるものの、余裕で数十個が併存すると思っています。

そうした未来を想像した際、自分たちがどのポジションを取りたいかが重要で、僕たちはジャパニメーションっぽい感じのカルチャーというか、ポップカルチャーだったり、匿名でエンタメという領域で最大手になっていきたい。Facebookのようにリアルなアイデンティティーでやろうというのも成立するだろうし、特定の宗教の教義に反しないメタバースも出てくるかもしれない。文化圏によって住み分けられるはずです。

 
──そうした未来に向けて今後2、3年で100億を投じていくということですが、その背景をお聞かせください。

DJ RIO 僕たちがREALITYをリリースしたのは2018年8月でした。当時は誰でもVTuberになれるというようなコンセプトでサービスをスタートしたわけですけど、当時からVR/ARが普及していくとみんなアバターを持つ時代が来るよねっていう予見はあった。

それは昔、インターネットで情報発信するために、レンタルサーバーを契約し、HTMLを書いてFTPで投稿してホームページをつくらなければ行けなかったのが、今や誰でもTwitterやInstagramなどを使って似たようなことができるようになった。だからVTuberって当時のHTMLとかレンタルサーバーとかFTPだなと感じて、同じようなハードルの下がり方はするだろうと。

自分の体をインターネット上に持って、何かコミュニケーションしたり、情報発信するという前触れだなと感じ、そこにたどり着くために少しずつでも進めようと思って、REALITYはスマートフォンからアバターをつくれるところからスタートしました(参考記事:なぜぼくたちはREALITYをつくったのか〜1周年によせて〜 前編後編)。

 
──REALITYも、今やアバターを使ったライブ配信だけじゃないぐらいにやれることが広がった。

DJ RIO そうですね。そこから3年かけて、ライブ配信だけでなく、何人も同じ空間に入っておしゃべりできる居場所になったり、ゲームとリアルタイムのコミュニケーションを一緒に楽しめるようになったり、投げ銭によるいわゆるクリエイターエコノミー的な側面などが徐々に加わっていったんです。

そうした状態の名称にいまいちしっくりくるものがなくて、アバターとライブ配信とゲームが一体化したバーチャルSNSといってみたりしてたのですが、昨今、メタバースという概念が普及してきたことで、「あ、ちゃんとこれ名前ついたじゃん」と。元々のコンセプトは変わらないけど、改めて自分たちがやってることは「メタバース」だよと定義したわけです。

宣言することはとても大事で、それこそマーク・ザッカーバーグも「今は自分たちはソーシャルメディアカンパニーと呼ばれているが、5年後にはメタバースカンパニーと呼ばれている」と言い切ったわけじゃないですか。それは社内を動かす力もあって、僕たちでいえば「ライブ配信」ではなく「メタバース」ということで、企画や機能の方向性が明確になる。

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今後2、3年で100億というのは、今のREALITYを大きく伸ばすだけでなく、3D空間をつくれる仕組みなど、ほかのソーシャルVRでも実現している要素を少しずつ取り込んで発展していくことが必要だと感じています。だからそのための人材採用とかマーケティングに積極投資していくというのが概要です。


VRChatのクラブで感じたリアルの空気感

 
──それこそ「セカンドライフ」のように、メタバース自体は昔からある概念です。昨今なぜこの用語が流行しはじめたと思われますか?

DJ RIO 投資家とゲームやSNS企業の思惑が合致したからだと思います。例えば、アンドリーセン・ホロウィッツが2、3年前からゲーム業界に積極的に投資しています。

ームはすごい勢いで成長している世界最大のエンタメ産業で、それに投資するのは合理的なことですが、一方で彼らはゲームはバリュエーション(企業価値評価)が低いという課題意識を持っていた。つまりヒット作品を産めるかどうかのバクチ要素が強いコンテンツビジネスとして見られていて、きちんと評価された株価がつかないという問題をどうにかしようとリフレーミングを試みていました。例えば「GaaS」(Game as a Service)という用語で、SaaSのように長期継続する積み上げ型ビジネスモデルなんだよという見せ方をしたこともあったのですが、これは流行らなかった。

次に持ってきた言葉が「メタバース」だったんです。彼らが投資している「ロブロックス」は、ユーザーがアイテムをつくってゲーム内で売れるようなビジネスモデルで回っていて、ちょうどメタバースがハマった。同じゲーム業界でいえば、Epic Gamesも「フォートナイト」でかなり前からメタバースといっていた状況もあります。

FacebookもVR/ARというキーワードを使っていましたが、よりプラットフォームビジネスっぽい、単なるハードウェアじゃないワードが出てきたから、これはいいと思ってメタバースを採用したのではないでしょうか。

 
──なるほど(笑)。そうした誰かの思惑とは別に、昨今のメタバースにおいて、RIOさんが「これはすごい」と感じた個人的な原体験ってあったりしますか?

DJ RIO 確か2017年の秋ぐらいにVRChatで経験しました。それまでも会社としてはVRChatに投資していましたが、1ユーザーとして衝撃的だったのは、自分のアバターをきちんと自作して、VRモードで入った瞬間でした。下を見たら自分の体が見えるし、手をあげたら当然自分の手が上がる。自分が作ったアバターで、一人称視点で「なりたい自分になる」ことの没入感というのは、PCモードのディスプレーで見るのとまったく違って驚きました。

さらにVRChat内にあったクラブでイベントがあるというので行ってみたら、人の距離感や場の空気が本当のクラブみたいだった。例えば中心で好きで踊っている女の子に対して、この会場における一番注目を集めているのはあの子という無言のコンセンサスが形成されていて、「あの子スゴいな」「ちょっと仲良くなってみたいな」という気持ちが自分の中に湧いてきたんです。ほかにも奥でいちゃついてる2人がいて、みんながちょっと距離を置いているとか、なんか空気感がすごくリアルで、自分の感覚でこれはもうひとつの現実だと感じてしまった。

 
──身体と空間が伴うことにより、言葉だけじゃない、非言語的な要素が含まれる場のコミュニケーションを実感したという。

DJ RIO そうですね。ほかにも2017年末のVTuberムーブメントが始まる頃、某VTuber企業のタレントが配信する様子を見せてもらったのも衝撃で、まったく新しい人間の可能性が目の前で展開しているという感覚を覚えました。そのふたつが原体験になっていると思います。

 
──そうしたビビッと衝撃を受ける体験って、RIOさんの過去にもあったのですか?

DJ RIO 「これはすごい」と感じるタイミングが、ときどきありますよね。僕よりもひと回り上の経営者たちからは、Mosaic(NCSA Mosaic、1993リリースのテキストと画像を同時に表示できたウェブブラウザー)を初めて触って、世界中のウェブを見て回ったという衝撃の話をよく聞きます。「こんなパソコンでカチカチやるだけで、世界中にある情報に瞬時にアクセスできて、やりとりできてしまう」という驚きがあったと思うんです。僕は世代ではないですが、そんな「時代の変わり目を最初に見ちゃった」みたいな感覚が近いと思います。


3DアバターだからそのままVRに持っていける

 
──REALITYの現状も知りたいです。どれくらいのユーザー数で、どんな国で使われていますか?

DJ RIO ユーザー数でいえばApp Annie調べで全世界500万人以上、主要な地域だけでも6、7つの国と地域、ユーザー数はアメリカが最大ですが、東南アジアや中南米でも使われているほんとにグローバルのサービスに成長しています。

 
──海外でも伸びているんですね。国内外で顕著にユーザー数が伸びたタイミングはいつだったのでしょうか?

DJ RIO 国内は昨年、緊急事態宣言が発令されたときです。あのタイミングは、ネットのあらゆるコミュニケーション系サービスが伸びたと思うんですが、ご多分に漏れず僕らもそうだった。海外では何回も階段状に伸びていて、例えばタイでリリースしたあとにめちゃめちゃ流行ったりとか、ロシアやブラジルでも伸びたり。アメリカは今年5月のリリースですが、この3ヶ月ものすごい勢いで伸びて、最大マーケットになってしまった。地域の追加と地域ごとでのマーケティング活動によって伸びているのが現状です。

 
──そうしたREALITYを、メタバースと定義してどう発展させていきますか?

DJ RIO 僕自身は多くのユーザーに使われて、かつビジネスとして成立するものをつくっていきたいという志向が強いです。2018年当時、VRChatやバーチャルキャスト、clusterなどVR機器があること前提でつくられているサービスが盛り上がっていましたが、僕はもっと参加するハードルの低い事業にしたいと考えました。

スマートフォンだけでアクセスできて、3Dモデリングができなくてもアバターがつくれて、OBSを使えなくてもライブ配信できる。コンテンツの世界ってツールを組み合わせれば色々実現できると思います。それができる人はやって貰えばいいのですが、僕たちは色々な技術や機器を組み合わせないとできなかったことをもっとシンプルにしようと思って、REALITYをつくりました。

そんな当初のハード選定やハードルの低さの設計が当たって、今や全世界500万人以上のユーザーが全員アバターを持ってライブ配信しています。そんなサービスは世界中みてもひとつもないわけです。

今後についても、参加のしやすさは常に大切にしつつ、なおかつ3D空間を作れるとか、ワールド内にないコンテンツをユーザーがつくれて、それによってお金を稼げるとか、みんなが今言っているようなメタバースの仕掛けはどんどん盛り込んでいきます。

 
──ハードルを低くするということは、先ほど触れていたVRChatのような身体性を伴うメタバースまでREALITYはいかないということでしょうか?

DJ RIO それは中期的には絶対行くと思っています。だからREALITYのアバターはスマートフォン向けだけならコストの低いLive2Dでもいいところを、VR/AR時代になった際に持っていけるように3Dでつくっているわけです。あとはハードウェアの普及状況次第で、僕たちの対象ユーザー層にとって適切なタイミングで対応したいと思っています。

 
──3Dアバターだから、来るべきVR時代にそのままの体で活動できるというのは素敵な話ですね。ゲームだと、その世界内で完結していて、自分のアバターを持っていけないというのは、よくある話です。

DJ RIO もちろんその前提です。昨今のアバターって、すごく自己同一視するんですよね。今までのMMORPGはプレイヤーキャラクター感があって、自分がマウスやキーパッドで操作して戦ったりするものだった。

僕らのアバターは、スマートフォンが手鏡だというメタファーでつくっていて、スマートフォンに向かうと自分のアバターがこっちを見ていて、自分が動いたら当然、鏡のようにアバターも動いて、逆にいうと勝手に動かない。勝手に動いちゃうと自分じゃなくなってしまうので。自分が常に投影されている設計になっているから、自分との同一視度合いが他のアバターサービスに比べて段違いに高くて、だから色々なところにこの体で行きたいという気持ちが強くなるんじゃないかと思っています。


サービス業が売れるようになってからが本番

──先ほどメタバース内でお金を稼げるようにしたいという話が出てましたが、実現性はあるのでしょうか?

DJ RIO 全然あると思いますし、事例としても増えています。現状のREALITYでもライブ配信に対するギフトで収益化できて、それでたくさん稼ぐ人も出てきている。ただ手段がライブ配信しかないので、それは増やしていきたいです。

 
──例えば、どんな仕事があると思いますか?

DJ RIO 僕はメタバースにも、第一次産業、第二次産業、第三次産業みたいなのがあると思っています。今、VRChatにせよ何にせよ、アバターやオブジェクトを作って売るみたいなマーケットプレイスが目立っていますよね。これは第一次、二次産業、つまり製造業に近い。もちろんバーチャル建築家やアバターのデザイナーは生まれてくると思っているし、当然それで収益化されるべきです。ただ、今の世界を見てもわかるように、従事している人の規模で見ると第三次産業、サービス業のほうが大きい。

例えば、英会話教室や教育のセミナーもあるだろうし、家具やインテリアやアバターを選んでくれるコーディネーターだったり、有料の1on1トークなども成り立つでしょう。そうしたサービス業向けのマーケットプレイスができるというのが、本当の意味で裾野が広がるタイミングかなと思っています。

今NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)を見てても、アートを描いたりプログラムを作ったりする人たちしかコンテンツを提供してませんが、そのうち「〜〜する権利」を売れるようになると、もっと一般化して、誰でもコンテンツ提供者になれる。ちなみにライブ配信も、しゃべれれば提供できる一番ハードルが低いサービス業なんですよね。

 
──そこまでメタバースの社会的存在が大きくなると、法やルールなど仕組みの整備も必要になってきそうです。

DJ RIO それはどこまで行っても人間が集まる場所では必要ですからね。ソーシャルメディアでも様々な治安維持の取り組みを行なったり政府当局と連携してますし、僕らもユーザー数が増えてくると荒らしやスパムが増えてくるので対応していかなければいけない。それも今までSNS運営やソーシャルゲームなどで培ってきたノウハウが活きると思います。

今から5年後ぐらいには、AR/VRデバイスもマスレベルに普及しているはず。今のスマートフォンアプリのREALITYはある意味プロトタイプのようなもので、本領発揮するのは一人称デバイスになってからです。目の前にアバターがいっぱい歩いていて、その人たちと喋ったり、何か遊んだりというのが日常的にできる。

人生で一度は数億人が参加するサービスをつくってみたいです。現時点でもREALITYは急激に成長して人手が足りてない。FacebookやTwitterなどのサービスは、数千人単位で開発していますから。僕らはまだ数十人なので、メタバースをつくるというエキサイティングな仕事に携わりたい方を募集しているので、興味のある方はぜひご応募ください。


(Reported by Minoru Hirota

 
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