受けるポイントは「声」と「多才さ」にあり? 中国のVTuber事情

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PANORA読者の皆さん、初めまして。中国でコンテンツ業界に10年ほど従事している岸嶺ミミムと申します。2017年にAnimeJapanで初めてキズナアイに出会い、VTuberという存在に魅せられて色々と観察させてもらっています。今ではキズナアイ自身はバーチャルYouTuberを名乗らなくなってしまいましたが……。

さて本稿では、中国のVTuberの盛り上がりや、中国で人気があるVTuberについてご紹介したいと思います。

2017年6月29日時点でのKizuna Aiの微博アカウント(作者スクショ)

キズナアイの微博開始がスタート地点

2017年6月26日は、キズナアイが中国のSNS「微博」で活動を始めた日です。いわゆるVTuberが中国に登場してから、早くも5年目となりました(キズナアイ本人はバーチャルYouTubeと名乗っていますが、ここではほかのタレントも含めてVTuberに統一します)。

2018年には、ホロライブを手掛けるカバーが中国の動画サイト「bilibili」に公式チャンネルを開設し、またにじさんじを手掛けるいちから(現ANYCOLOR)が上海などでVTuber募集を始めるなど、日本のVTuberが相次いで中国市場に参入しました。近年では、2020年にホロライブ所属のVTuber・桐生ココが炎上し、ホロライブが中国から撤退するなど、日本VTuberと中国の関係は目まぐるしく変化しています。

bilibiliの桐生ココの検索画面(2021年7月12日)

現在中国では、ANYCOLORとbilibiliが共同運営している「VirtuaReal」という約70名のグループの人気が非常に高いです。その中でも「泠鳶yousa」(bilibili登録者数298万)と「hanser」(273万)は、中国で最も登録者数が多いVTuberとなっています。このジャンルの開拓者であるキズナアイの登録者数が131万人であることを考えても、中国におけるVTuberの主役は変わってきているといえるでしょう。

泠鳶yousaのbilibiliページ

中国発VTuberの双璧、泠鳶yousaとhanser

泠鳶yousaは2019年3月9日にデビューした中国のVTuberで、同年7月19日のイベント「Bilibili Macro Link-VR」で、VirtuaReal Star(VirtuaRealのエージェント契約)に所属することが発表されました。

泠鳶yousaは、少し舌足らずな中国語を話し、配信では方言が混じることもあるなど、特徴的なしゃべり方が魅力。それだけでなく、イラストや歌も上手で、自分で作詞作曲もすることから、多才なアーティストとしての地位を確立しています。ホロライブの角巻わためや天音かなたのような立ち位置に近いかもしれません。

StarryResonanceオーディション

VirtuaRealに所属する前、2012年からbilibiliで活動していて、2016年にはオリジナルアルバム「茜色詩集」を出しています。当初は単なる配信者あるいは歌い手という立ち位置でしたが、時流に乗って2019年3月にVTuberとしてデビューしています。

今では300万人近い登録者数を持つ彼女ですが、bilibiliのアカウントをのぞくと、何十万のイイネが付いた投稿がある一方、2012年当時に投稿した数十イイネのイラストも見られ、彼女の歴史を見守ってきたファンの存在を感じられます。

一方、hanserは2011年からbilibiliで活動していた声優で、VTuber化以前は「東方」や「銀魂」の中国語同人アフレコや歌ってみた動画を投稿していました。特に同人アフレコでは銀魂の神楽役として多くの動画を出し、声優としてスタジオに所属していたこともあります。bilibiliでは歌がうまい歌い手を「小天使」と呼ぶのですが、hanserはその歌唱力の高さにより、今では小天使は彼女の代名詞となっています。2019年12月14日にVTuberになり、2020年12月20日にVirtuaReal Starに所属しました。

歌ってみた動画。コラボした「多多poi丶」(右)は原神のパイモンの中国版CV

hanserも声が特徴的で、初期からの固定ファンがいること、そして多才なアーティストであることがyousaと共通しています。

中国で強く支持される日本人VTuberも

日本発のVTuberで人気があるのは、bilibiliの「神楽七奈」ことカグラナナです(イラストレーターとしての名義はななかぐら)。2019年1月22日にYouTubeで、同年3月からbilibiliで配信を始めており、bilibiliチャンネルの登録者数は現在178万。YouTubeチャンネルの登録者数が25.5万人なので、中国でのほうが人気が高いVTuberといえるでしょう。

カグラナナのbilibiliチャンネル

ななかぐらは、ホロライブの百鬼あやめのキャラクターデザインを担当しており、ゲームのキャラデザや同人活動をしているイラストレーターとしても著名です。中国でもななかぐらが担当したゲーム作品や同人作品は有名で、なおかつホロライブメンバーの「ママ」ということで知名度があります。bilibiliのチャンネル開設も、bilibili側からの誘いを受けてのことだったようです。ちなみに、中国では白髪のキャラは人気が出やすいといわれており、もしかしたらそのあたりも中国での人気に関係しているのかもしれません。

7月から放送されているアニメ「探偵はもう、死んでいる」のEDを歌唱しており、こちらのアニメはbilibiliでも配信しているので、これからさらに多くの人がカグラナナに注目するのではないかと思います。

緋赤エリオも中国でチャンスをつかんだ一人で、50万人の登録者数がいる有名VTuberです。彼女もほかの著名VTuberと同じように多才なクリエイターであると同時に、女性としては低めで厚みのある声が好かれているようです。先日、上海で単独ファンミーティングを開催したのも記憶に新しいところです(関連記事)。

彼女がbilibiliでの配信を始めた頃は登録者数は5万に満たなかったのですが、2020年10月20日の歌配信を機に、登録者数が10万、20万と爆発的な勢いで増え、中国のファンの間では「奇跡の夜」と呼ばれています。現在、緋赤エリオのチャンネル登録者数は50万です。

bilibiliの緋赤エリオのページ

「奇跡の夜」の配信自体は、自身が選んだセットリストに基づいて歌うという、ごく普通の内容でした。登録者数の激増に影響したのは、配信以前の16日に「FANBOX」で自身の置かれた状況について説明をしたことがきっかけではないかと思われます。ファン限定の内容なので詳しくは語りませんが、コロナ禍で無職になってしまったことや、就職したら配信時間が減ってしまうこと、ご家族の介護をしていることなどが綴られていました。この内容を中国のゲーム掲示板「NGA」で紹介したファンがいたのです。

NGAは中国最大のゲームコミュニティーながら、ゲーム関連の配信が多いことからVTuber関連の話もかなり活発に交換されており、件のホロライブの中国炎上に関しても、多くの人が話題にしていた場所でもあります。つまり、中国のVTuber界隈にかなり影響力があるサイトなのです。

遠因としては、ホロライブが炎上した9月から日が浅く、依然ホロライブの件の話題が交わされていたこともあり、多くの「脱ホロ」ファンが力を貸したのではないかの推測もできます。2020年10月のNGAのホロライブ関連のスレッドは現在ロックされていて閲覧できませんが、当時そのような話題があったと聞いています。

結局中国ではどんなVTuberが受けるのか

以上、大づかみではありますが、中国で人気のある現地や日本発のVTuberについて紹介してきました。人気のある人たちを改めて眺めると、声や歌に魅力があり、多才なクリエイターであるという部分が注目されやすいポイントのようです。

また、基本的なことですが、中国に対して友好的な態度をとっていることも重要です。中国語を学んだり、中国の楽器を演奏したり、C-popを歌ったりといった配信は人気が高いようです。日本でも、海外出身のタレントが、日本の楽曲を歌ったり、日本語を勉強する、話す配信が人気を集めやすいのと同じだと感じます。中国で成功するカギは、日本人が外国人にやってもらってうれしいことをやれるかどうか、なのではないでしょうか。

今後も、日本と中国のVTuberシーンを追いかけていきたいと思います。

(TEXT by 岸嶺ミミム

<著者プロフィール>
中国アニメ・ゲーム・コミック(ACG)系VTuber。猫。中国・北京常駐もコロナは猫にも感染すると聞いて日本へ避難。中国ゲームの日本進出、日本会社の中国進出を猫の手で手伝う。