花譜ワンマンライブ「不可解弐 REBUILDING」1万字レポート 激動のコロナ禍に花咲いた魔法のライブ

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バーチャルシンガー・花譜(かふ、敬称略)は11、12日、豊洲PITにて音楽ライブ「不可解弐REBUILDING」を開催。「Q1:RE」「Q2:RE」「Q3」と題した内容が異なる合計約7.5時間の3公演で67曲を歌い上げた。

事前に募ったクラウドファンディングでは8000万円超を集めるなど、開始前からネットで話題になっていた本ライブだが、本番でも新曲の披露などでリアルとネットに集まった観客を大いに沸かせていた(と言ってリアル側は発声やペンライトが禁止なので、拍手に限られたが)。

そして花譜のライブといえば、単純に彼女の美声とオリジナル曲を堪能できるだけでなく、毎回新要素を盛り込んでくるのも見どころだ。今回は何に挑戦したのか。3公演とも現地で「観測」(彼女のファンは「観測者」と呼ばれる)した見どころをまとめていこう。

なお今回も1万字と長文なのでご注意を。本当にむちゃくちゃ長いです。不可解Q1:RE、Q2:REは6月20日20時まで有料視聴可能。料金は各7000円だ(チケット販売ページ)。

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年に数回しかない希少な花譜のワンマンライブ

この書き出しでレポートが始まるのは何度目だろうか?

終わりの見えないコロナ禍。今なお苦しめられている業界は多方面に渡るが、ライブエンターテイメントも例外ではない。2020年の2月末ごろからリアルでの実施が難しくなり、VTuber業界でも多くの公演が中止や無観客でのオンライン配信となってきた。

花譜のライブも同様だ。この不可解弐も2020年にリアルで2日間にわたって実施予定だったが、コロナ禍の影響でオンラインでの開催に方針転換。バーチャルライブハウス「PANDORA」をゼロから作り上げて、2020年10月にQ1、2021年3月にQ2という2回に分けて配信した(Q2のレポート)。

そのQ1、Q2を踏まえた上で、リアル向けに再構築したのが今回のREBUILDINGだ。構図としては、2019年8月に実施した初のワンマンライブ「不可解」を受けて、2020年3月にアレンジした「不可解(再)」を無観客で再演したのと似ているが、今回はQ3を加えた点が新しい。


ファンにとっては、リアルかつワンマンで花譜の音楽に触れられるのは「不可解」以来、実に1年10ヵ月ぶりとなる。音楽の分野でアーティストを好きになったら、やっぱりライブに参加して生で歌声や音楽に触れたくなるもの。そしてアーティストによっては、ツアーなどで年間何十回もライブを行うこともあるが、花譜の場合は年に数回とそもそも実施自体が少ない。

今回の不可解弐REBUILDINGは、「不可解」以降、楽曲を提供した映画やアニメ、参加したイベントなどで彼女を知ったファンにとって、初めて彼女を生で「観測」する貴重な機会なのだ。だからこそ緊急事態宣言が延長されるかどうかわからない時点でリアル開催に踏み切ったことに、心から感謝した人も多かったはず。

その喜びは会場のそこかしこから伝わってきた。検温と消毒で厳戒なコロナ対策を経た上で会場に入り、座席について会場に流れるクラシックのBGMを聴きながら他の来場者を見ていたが、まるでお祭りに来た子供のようにウキウキしながら座席に向かっていたのを覚えている。ずっとネットで見ていて、ようやくその姿と声を目と耳と体で体験できる。そんなドキドキが伝わってきて、思わず自分も笑顔になってしまった。

余談だが、男女で来ているペアが増えたという印象も受けた。「不可解」のときは男性がほとんどだった印象だが、「もしかして……花譜のライブでデート……ってコト⁉︎」と客層の広がりに驚き、彼女が今まさにメジャーの階段を登っていることを実感した。


「形を失った世界」だから実現できたライブの仕掛け

ライブ自体だが、3公演すべてをレポートすると圧倒的に長くなってしまうため、見所だけまとめていこう。それぞれコンセプトが異なり、副題がそのまま内容を表していた。

・不可解弐 Q1:RE- 形を失った世界で僕らは –
・不可解弐 Q2:RE- 世界線は分岐する –
・不可解弐 Q3- 魔法の無い世界 –

形を失った世界で僕らは」と題したQ1:REは、コロナ禍がそのままテーマだ。

特にオープニングで流れた実写ドラマは、先に触れたファン心理を汲んだ素晴らしい内容だった。換気のためのファンの轟音が響く中、会場の全員が固唾を飲んで見守っていた。

このドラマは、今年3月に実施したQ2にて、一部と二部の間に流した、田舎と都会に住む2人の女の子の物語だ。親やクラスメイトに打ち解けられず、心に澱が溜まっていく田舎の女の子。直近の希望は、自分を解ってくれる花譜のライブに行き、ネットでやりとりしている都会の女の子に会うことだった。しかし、その機会もコロナ禍で潰えてしまう──(詳細はQ2のレポート)。

筆者は「再構築にあたって、Q1の冒頭にこの動画を持ってくるなんて、だいぶ手を入れてるなぁ。この流れだとQ2で流れた『魔女』が最初の曲かな?」などと考えて見ていたが、実はこの物語には未放送パートがあったのだ。

続きは都会の女の子から。教室にて女子4人で話していて、グループの中心である女の子が、一人で本を読んでいる「隠キャ」を指して「ムリムリー(笑)」と遠くからいじる。同調する他の2人に、都会の女の子は「全然面白くないよ」と反抗。今まで何も言えなかった自分を変えて、一歩を踏み出した。

シーンは田舎の女の子に切り替わる。教室にて、同じクラスの男の子たちが彼女が描いたイラストを手にして、「何これ?」「何かのアニメ?」と興味を示す。しかし田舎の女の子は、自分が今置かれている状況すべてに耐えられなくなったのか、スケッチブックを抱えて教室を飛び出し、階段を駆け上って屋上で大空に向けてイラストを撒く。そして、大声を上げて泣いてしまう。

BGMとして流れ出したのは、同じKAMITSUBAKI STDUDIOのGuianoが手がけた「優しい大人になりたい」。花譜が歌う珍しいバージョンだ。

また都会の女の子に切り替わり、「制服着崩して。おしゃれしているのがそんなに偉い?」と反抗するも、グループの中心の女の子から「何言ってるか全然わからない」と、次の授業のために立ち去られてしまう。一人、取り残される都会の女の子。

再び田舎の女の子に戻り、何か吹っ切れたのか、ヘッドホンをつけて音楽を聴きながらスマートフォンで何か操作をしている。

「やっぱり諦めたくない」
「いつかさ」
「一緒に花譜のライブ、行けたらいいね」

一人、教室に取り残される都会の女の子のスマホが振動して、そんなメッセージが届けられた。イラストを集める田舎の女の子が映されながら、花譜のナレーションが入る。

「誰だって生きづらい世界だ
積もる不満もあるし
それでもきっと呼吸が続く限り
歩みを止めないんだ
私たちは、目に見えない何かにすがりながら
今日も前をむくんだ
例えどんな世界だって
きっとこの音が鳴り止むことはないから」

「このまま、このまま……」と歌詞を繰り返す花譜の歌声を耳にしながら、「よかった……」と涙腺を緩ませながらスクリーンを眺めていると、さらに続きがあった。

橋の上でおしゃれして待っている都会の女の子。そこに現れたのは、田舎の女の子だった。「やっほー」「始めまして」「かわいいね」「緊張しちゃうんだけど」と、距離感を測る挨拶を交わし、二人が向かった先は、なんと豊洲PIT。先の「いつか」は、今、われわれが参加している、6月11日の花譜のライブだったのだ。

「えー、やっぱTシャツかなー」と物販を眺めて、「ついに、入るよ」「入ろう」とワクワクしながら席に着く二人。「さっき見ていた光景そのままやんけ!!」と驚くのも束の間、画面の中で拍手が鳴り響き、いよいよライブがスタートする。ドラマは、二人がそっと手を握り合うショットで幕を閉じ、タイトルが現れたのちに、いつもの「少女降臨」のオープニングが始まった。

このフィクションとノンフィクションをリアルタイムで交錯させる手法は、コロナ禍でバーチャル会場での実施があったからこそなしえた表現だ。逆境すら逆手に取ってやるというKAMITSUBAKI STUDIOの意気込みが伝わってきて鳥肌が立った。

そしてこんなものを見せられたら、観客が盛り上がらないわけがない。2曲目の「Re:HEROINES」では、冒頭、「花譜です。ついに始まりました、不可解弐REBUILDING1日目、Q1:RE。盛り上がっていきましょー!」とステージからの呼びをきっかけに、興奮に耐えきれなくなった観客がバタバタと立ち上がっていった。声が出せない「形を失った」のライブでも、精一杯楽しみたい。そんな想いがひしひしと伝わってきた。

もうひとつQ1で語っておきたいのが、ホロライブプロダクション・イノナカミュージックに所属するAZKiとの共演だ。古くからの「観測者」なら、ライブをリアルタイムで視聴してTwitterに感想を投稿したり、歌の動画にコメントを残したりと、AZKiの花譜への傾倒ぶりはご存知のはず。

AZKi自身も、アイドル路線を行く事務所において、音楽にこだわって活動を続けてきた。ネットでの初投稿も、花譜が2018年10月、AZKiが2018年11月と近い。

「それではお呼びします、AZKiちゃーん」
「花譜ちゃーん、今日はよろしくお願いします。AZKiです」

「こんなことがあって、いいんでしょうか。夢を見ている、可能性ありますよね」
「ここに、いますよ」

AZKiが一方的に緊張しながら言葉を交わす様子に思わず笑顔がほころぶ。そうして歌い出したのは「未確認少女進行系」。サビで、2人で手を振りながら「ハローハローハローハロー」と歌っていたシチュエーションが印象に残っている。

Q1:Reでは、ほかにも春猿火(はるさるひ)との「命に嫌われている(RAP ver.)」、ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)との「深淵」、理芽(りめ)との「まほう」など、コラボが目についた。特に理芽からはTwitterで「花譜タロウ」と呼ばれるなど距離がとても近い。いずれのコラボも冒頭の二人の女の子が手をつないで心を寄せる様子を想起させて、心がほっこりした。


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