吹き抜けや廊下が展示スペースに早変わり 渋谷PARCO × STYLYの取り組みにアートの未来を見た

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11月22日にリニューアルオープンした渋谷PARCO。「ティフォニウム・カフェ」に続いて、XR系でぜひとも注目しておきたいPsychic VR Lab(サイキックVRラボ)が提供するSTYLY(スタイリー)の取り組み「SHIBUYA XR SHOWCASE」についても紹介していこう(関連記事)。


デジタルでも空間でアートできる新感覚

唐突だが、みなさんはVRというと何を思い浮かべるだろうか。ゲーム? それともビジネス向けのソリューション? 店舗で遊ぶロケーションVR? どれも確実に存在感を増してきているのだが、そうしたいくつもあるVRのジャンルで、Psychic VR LabがSTYLYで挑戦しているのがアートの分野になる。

VRアートはまだまだ一部の先進的な人が注目している状態だ。XR業界の人なら、アーティストのせきぐちあいみさんが「Tilt Brush」で描くアート空間がメディアやイベントでよく取り上げられているため見たことがあるという人もいるはず。

なぜ面倒臭そうなゴーグルをわざわざかぶって創作に打ち込むのか。それは今まで平面でしか表現できなかったものを空間に移せるという点が大きい。

今の所イラストや動画など、コンテンツの中には平面のキャンバスやディスプレーで見せることが前提となっているものも多い。それは歴史的に紙から始まり、映画のスクリーンやテレビ、PCのディスプレー、スマートフォンとより多くの人に安価に伝えられるメディアが平面のものだったからだ。

それが昨今のXR(VR/AR/MR)技術の進化で大きく状況が変わり、平面前提のアートも空間でつくったり見たりできるようになってきた。例えば先のTilt Brushなら、木の幹を描いた上で四方八方に広がる枝葉を回り込んで生やしたり、立方体をそのまま描いたりすることが可能だ。鑑賞する側も、体を近づけて拡大したり、回り込んで裏側を見たりといった自然な見方が実現できる。つまりは物理的に用意しなくてもできるインスタレーションで、少し難しい言葉で言えば空間コンピューティングという概念にもなる。

そんなXRの可能性をより多くのアーティストが手軽に使えるように環境を整えているのが、Psychic VR LabのVRクリエイティブプラットフォーム、STYLYになる(余談だが、Psychic VR Labのミッションが「全人類の超能力を覚醒させること」というのもブッ飛んでいて面白い)。

一番大きいのが、制作ツールの「STYLY Studio」が、ソフトのインストールなしでウェブブラウザーで使えるという点。VRゴーグルを持っていないアーティストでも、インターネット経由でサービスにログインし、オブジェクトを空間に配置してVRアートをつくれるわけだ。もちろんVRゴーグルを持っていれば、VRモードに切り替えて直感的に制作に打ち込める。

そしてPsychic VR LabはPARCO、ロフトワークとともに、ファッション/カルチャー/アート分野のVRコンテンツアワード「NEWVIEW AWARDS」を開催しており、今回、渋谷PARCOのバーチャルショーケース「SHIBUYA XR SHOWCASE」をPsychic VR Labが手がけている。そんな感じでだいぶ前提が長くなってしまったが展示を紹介していこう。

 
●World’s end supernova

NEWVIEW AWARDSは今年で2年目となる企画で、「World’s end supernova」は、その1年目の「NEWVIEW AWARDS 2018」でPARCO賞を受賞した作品となる。作者はVR空間デザイナー・Discont氏で、終わりの後に新しい世界が始まることへの期待感を表現したとのこと。

5階の吹き抜けにあるエスカレーター付近での常設展示なのだが、バーチャルショーケースと言うだけあって、VRゴーグルをつけないと鑑賞できないようになっている。具体的には、ゴーグル前面のカメラを使って周囲がモノクロで見える(シースルーモード)ようになり、6階に上がるエスカレーターの手前あたりにCGが現れる。

30台のVRゴーグル(Lenovo Mirage Solo)を用意しているというのも圧巻だ。
吹き抜けから見えるエスカレーターの壁あたりにダイナミックにCGが現れる。
筆者鑑賞中。集団でゴーグルをつけてる姿はかなり目立っており、4階から上がってくる客が「なんだなんだ」と釘付けになっていたのがVRゴーグルの中からもわかった。

アートに関しては「なんもわからん」な筆者なのだが、天井や壁面などと3Dオブジェクトの位置がぴったり合って展示されている点はスゴいと感じた。聞けば、建物の室内の形状データをもらい、それにCGを調整したとのことで、このぴったりあっている点が鑑賞の気持ち良さを呼び起こしているのだと感じた。

 
●#califSHIBUYA:calif × ステレオテニス

もう一つは5階に出店しているビーズインターナショナルの「calif」とグラフィックアーティスト・ステレオテニスさんとのコラボ企画。手持ちのスマホをかざすことで、ビビッドな色使いで、80sの建築物からインスパイアされた形状の3Dモチーフが鑑賞できる。

場所は先ほどのWorld’s end supernovaから扉を出た外の通路で、まず壁面にあるQRコードをスマホで読み取り、STYLYのARアプリをダウンロード。さらにARアプリでQRコードを読み取らせると、オブジェクトが出現する。

何もない廊下にアートが出現。

現地では手元の端末の中に表示されているだけなのでイマイチ実感が湧かなかったが、上のように人を入れて写真や動画で撮影するとそのダイナミックさに驚く。これは色々なアーティストとコラボして、AR撮影スポットになりそう!

 
両展示で重要なのは、エスカレーターや廊下といった今までPOPを張るなどしかできなかった場所が、XR技術を使うことで空間ごとアートのショーケースに生まれ変わっている点だ。物理的なインスタレーションに比べて作る手間はそう変わらないが、展示のハードルがぐっと下げられるだろう。

そして今はサイズの大きなゴーグルやスマホだが、近い将来、メガネレベルまでARゴーグルが軽くなってファッション性も向上するはず。そこで建物の形状データとARクラウドの技術を合わせ、館内サインをCGで出現させたり、そこかしこに置かれたアート作品を気軽に鑑賞できるようになるだろう(実際、MRグラス「nreal light」も渋谷PARCOで展示している)。

そしてSTYLYのプラットフォームでつくられているということは、例えば、渋谷PARCOの建物データをアーティストに開放して、インターネット越しに作品を投稿してもらい、それを現地で体感するといった仕組みも構築できるわけだ。

実利でも表現でも最先端の試みなわけで、今後どう進化していくかがめちゃくちゃ楽しみになる。ぜひとも現地でその実力をチェックしておこう。

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
●関連リンク
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