ヒメヒナ「HIMEHINA LIVE 2021『藍の華』」ライブレポート 「オンラインでも現地」を願った仕掛けと演出に涙

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田中ヒメさん、鈴木ヒナさんからなるVTuberユニット「HIMEHINA」は7日、豊洲PITにて無観客のワンマンライブ「HIMEHINA LIVE 2021『藍の華』」を開催。その様子をニコニコ動画やLINE LIVE-Viewing、bilibiliにて有料配信した。

オンラインに集まった観客は約2時間半、27曲という超ボリュームのライブに興奮しっぱなし。各配信サービスでは絶えず感動の声が寄せられて、最終的に合計のコメント数が11万を超えるという勢いを見せた。また、ライブの最後には、5月26日に2ndアルバム「希織歌」(きりか)の発売を発表し、6月27日にパシフィコ横浜にてライブ「希織歌と時鐘」を実施することも明かして、ファンを歓喜させた。

彼女たちとしては、2019年9月の「心を叫べ」、2020年2月の「田中音楽堂オトナLIVE 2020 in TOKYO 『歌學革命宴』feat.鈴木文学堂」に続く3度目のワンマンとなる。今回はどんなドラマが起こったのか、現地を取材したのでレポートしていこう。


コロナ禍の「集まれない」にコメントや声で対抗

HIMEHINAのライブは、いつも泣かされてしまう。

ステージを見ていると自然とエモい気持ちが湧き起こり、魔法にかけられたように涙腺が緩んでしまう。涙という存在は、VTuberとしてポンコツ(褒めてます)な動画が目立つ彼女たちからは想像できない要素だ。しかし、筆者は3度のライブを現地で取材し、3度泣かされてきた。

その魅力は何に支えられているのか。言葉で解体すると、彼女たちの力強い歌声と、それを引き立てる天才的なライブ構成・演出という2点に集約されるだろう。

感動の中心にあるのは、彼女たちの歌声だ。

何曲歌い続けてもまったく変わらない圧倒的な声量。高速なラップパートも聴かせる滑舌のよさ。歌詞に合わせた歌い方の強弱。そして2人の声が合わさったハモりの美しさ──。盛り上げ曲もバラードも、すべて最高の状態で歌い上げてくれるという、ボーカリストとしての高い表現力にいつも唸らされる。

 
その歌声の魅力を何百倍にも増してくれるのが、ライブの構成と演出だ。今回まず語るべきは、コロナ禍を踏まえた新しいライブ体験の試みだろう。

昨今、当たり前になってしまった無観客のオンラインライブというと、単純にいくつかのアングルを切り替えてステージを映すだけの公演も多い。もちろん各配信サービスではコメントを投稿できるので、ファン同士がリアルタイムで盛り上がりを共有できるものの、案外、ブルーレイやDVDに収まったライブ映像をみんなで見るのと体験がそう変わらないこともある。

今回のライブでは、まずコメントを舞台演出に取り入れた。具体的には、ステージの左右に縦長の領域を設けて、左にはTwitterへのハッシュタグ「#ヒメヒナワンマンライブ」を付けた投稿を、右には冒頭無料パートのみのYouTube、有料で配信したニコニコ生放送・LINE LIVEに集まったコメントをそれぞれ表示。生放送のカメラでときおりコメントを抜き、その流速を見せて、観客の今を伝えていた。左右の上端にあるカウンターでは、リアルタイムで投稿数を計測。ちょうどアンコールのタイミングで右側が10万を超えたというのもエモい話だ。引きの映像ではコメント窓が会場の客席に現れるというAR演出も導入した。

ファンの声を事前に募集し、会場で流したというのも名采配だ。歓声や「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」「お帰りなさーい!」といった汎用性の高いものだけでなく、各曲に合わせた合いの手や客席に振られたときに一緒に歌う声なども集め、要所で流してライブ感を煽っていた。

声の活用で一番グッときたのは、19曲目の「うたかたよいかないで」と20曲目「ララ」の大合唱だ。ライブ定番のみんなで歌う曲で、ファンの声なしにはステージが完成しないと実感した。

こうした演出は、「離れていても、みんな一緒だよ」という運営側の意思表示だろう。たとえオンラインでの実施といえども、ファンはライブを成立させるために欠かせない存在。だからどんな手段を使っても、ここにいることを証明したい。

考えてみれば、各プラットフォームのコメントを統合するシステムを制作し、ステージに投影するためにプロジェクターも2台用意するなど、ライブ本編には直接関係ないところにコストを割いているわけだ。観客の声を集めて編集するのも手間がかかる。それでも、みんなにここにいてほしかった。HIMEHINAの運営母体である田中工務店の気持ちが伝わってきて、本当にファン思いだなと感激した。


曲間に宿る神的なストーリー展開

構成でいえば、毎度のライブでおなじみの歌パートへの導線のうまさを語りたい。彼女たちの語りやムービーを挿入することで、そのあとで歌われる歌詞の世界観を際立たせて、聞き手が共感しやすい状況を生み出している。

今回のライブは、実は2020年4〜6月に全国5ヵ所をツアーする予定だったが、昨年4月に発出された1度目の緊急事態宣言を受けて開催中止に追い込まれた。今年2月に仕切り直したものの、またしても2度目の緊急事態宣言で無観客・オンライン化に変更という不遇な道を通ってきている。せっかくチケットを入手したのに会場に行けずに悔しい思いをしたというファンも多いはずだ。

ライブ冒頭では、そんなファンの気持ちを汲んだオープニング映像が流れた。この開始までの5分が本当に「わかっている」ので、細かく起こしていこう。冒頭なのでYouTubeの無料パートでも視聴できる。

荒廃した世界の廃ビルの壁に座る2人。

「また二人ぽっちだね」「うん、誰もいなくなっちゃった」

そんな呟きのあとに、囁き声でこう歌い始める。

「おかえりをしよう ねぇ また会う日まで
おやすみをしよう ねぇ また会う日まで
時を噛み 空を待ち 土と記憶抱えるように
いつまでも いつまでも また会う日まで」

繰り返される「また会う日まで」の言葉とともに、目を閉じる二人。一体、何が起こっているのか理解が追いつかないまま、視点が切り替わり、「OXALIS(オキザリス)の外殻らしきものを発見。転送を開始します」という謎の男性の声が聞こえる。

「世界はまた、誰もいない世界を繰り返してしまうかもしれないけど、遠くからたくさんの命の声が聞こえるはずさ。寂しくないといいね。おやすみ、My Dear」

謎の男性がそう告げて2人をどこかに送り出すと、画面はたくさんのコメントに囲まれたリアルのステージに切り替わった。狐につままれるような気持ちのまま、流れ始めたのは1stライブの映像だ。

アナウンスされる「全国ツアー開催決定」の言葉と、「全国ツアーいくぞー!」という二人の嬉しそうな声。

一転しての「ねがいは、叶わなかった。」の文字。

ツアー中止を告げられて、2人が悲しさと悔しさをつぶやくLINEのトークルームの画面。

ツアー中止を告げるツイートと残念がるFacebookメッセンジャーの画面。

「ボクらは行き場を失った」の一言。

続けて彼女たちの声で、力強い想いが語られる。

ヒメ「当たり前だと思っていた、会えるってこと、歌えるってこと。いや、この世界が、この世界のままであるってこと」

ヒナ「当たり前だと思っていた。いつから勘違いしていたんだろう。僕らがいつか死ぬように、この世界にも永遠なんてなかったんだ」

ヒメ「正直、僕らが引き裂かれることなんてないと思っていた。悔しかったよ」

ヒナ「悲しかったよ。積りに積もった想いを取り返したくて、諦めたくなってさ」

ヒメ「諦めたくなくてさ」

2人「諦めたくなくてさ!」

ヒメ「あのね、会いたかったんだ……」

そう力強く宣言すると、完璧なタイミングで「藍の華」のロゴが浮かび上がり、泣きのギターが流れ出す。畳み掛けるように、二人はラップで想いを伝える。

ヒメ「死をもたらす病のはてに、暗くなった世界を諦めるように、いなくなったあの人のことや、会いづらくなった誰かを思う」

ヒナ「よかったときを思えば、変わった世界を恨んでしまいそうだから、変わらないものを見つめてそれだけを一生失わないと誓った」

2人「それはあなただった。それはあなただった! あなたのことを見失わなければ、どんな世界でも生きていけるって。単純なことだけど、この藍の華が咲くために、必要なのはあなたの声、笑顔、そして愛さ。今日は大きな花を咲かそうね」

ヒメ「ボクらがこれから捧げる歌がみんなの糧になればいいと思っているけど」

2人「その前に今日も力が欲しいんだ」

ヒメ「聞かせてよ」

ヒナ「聞かせてよ」

2人「生命ある限り歌うからさ、命の声を聞かせてよ!」

間髪入れずに、ファンから集めた声で80からのカウントダウンが始まる。カメラで一瞬映し出される「会いたかった」のコメント。0になるタイミングで「おかえりなさーい!」というみんなの声が聞こえて、アシンメトリーな新衣装をまとった2人が「藍の華」を歌い出した。

ここまで丁寧に温められて、気持ちがブチあがらないわけがない。その証拠にコメント欄の流速は一気に早くなり、ニコ生の画面には「おかえりー」のギフトが飛び交っていた。オンラインだというのに、ファンの興奮が伝わってくるのがとても面白い。ラスサビ前の「ラーラーラーララララーラーラーラララ」では、ファンの声を流し、3676ものボイスが集まったことを伝えていた。

 
10曲目の「夢景色」に入る前の2人の語りも心に響いた。

 
ヒメ「ヒナ……。幸せだね」

ヒナ「フフッ、どうしたの?」

ヒメ「なんかじーんときちゃった」

ヒナ「わかる。幸せだね。一昨年のファーストワンマンのこと覚えてる?」

ヒメ「うん、覚えてるよ」

ヒナ「ガチガチに緊張して、色んなところが記憶から抜けてってるんだけどさ……」

ヒメ「うん」

ヒナ「一個だけ、絶対に忘れないものがあるんだ」

ヒメ「それ、多分ヒメも一緒だと思うんだ」

ヒナ「本当?」

ヒメ「みんなの」

2人「笑顔!」

ヒナ「だよね?」

ヒメ「辛いことを乗り越えた先に、あんな景色があるなんて思ってなかったな」

ヒナ「それもまた夢だったのかもしれないよ。幻じゃなくて、描いた夢の方」

ヒメ「そっか。ヒメたちの夢は空よりも近くに、こんな近くにあったんだね」

 
自分たちに向けて、素直に気持ちを言葉にしてくれる。ファンにとってこれほど嬉しいことはない。ニコ生では「泣いている」「涙腺崩壊」など感動の声がよせられていた。

「夢景色」の本編でも、ラスサビ前、事前に集められたファンからのメッセージがサプライズで浮き上がり、思わず歌が涙声になってしまう。この2人も、またエモさの塊なのだ。そんな姿を見て生放送では「がんばれー!」のコメントが飛び交い、中盤にしてエンディングのような盛り上がりを見せていた。


涙のアンコールのお礼にもらい泣き

エモいつながりでいえば、「うたかたよいかないで」で挿入された「拝啓、去りゆくあなたへ。またいつかどこかで会えますか」「きっと会えるよね」というセリフだ。

ちょうどこの日は、裏で20時から「ゲーム部プロジェクト」のラストライブが行われていた。明示していないものの、色々と縁があったHIMEHINAの2人が彼・彼女らに送った言葉と思われる。そんなハイコンテクストな演出をさらっと入れてくるところに、現地で衝撃を受けた(あえて多くを語りませんが、ファーストライブ参加者には伝わるはず)。

 
極め付けは、アンコールで伝えたお礼だろう。25曲目の「劣等上等」を全力で歌い、息を切らせながら迎えたトークパートで、やっと実現できたこのライブについての想いをアコースティックギターの音に乗せて、ヒメさんが涙声で語り出す。

ヒメ「やっぱりここにくるまで、本当にやっと、やっとね。やっとできた、このライブ。ずっと、ずっとずっと、どうしても届けたいと言う気持ちがあっても……。こんなの世の中大変な状態だから、うまくいかないし。ツアーが中止になったときも、どうしても何か方法はないかなとか、色々いっぱい考えたけど、結局はできなくて。

自分の中で『藍の華』のアルバムを出してから、ライブがしたい、歌を届けたい、みんなと共有したいという気持ちがずっとずっと毎日つのってて、やっとできる、今日を迎えられるのが本当に本当に楽しみでした。

みんなが送ってくれた、たくさんの歓声、こうやって目の前にいてくれるメッセージ・コメント、Twitterの思いとか全部が……、ここまでがんばって堪えることもいっぱいあったけど、今日を迎えられて本当によかったと思う」

そんな感情たっぷりのお礼を言われたら、涙腺にこないわけがない。歌声のカッコよさで引き付けて、演出や構成で泣かせて、MCで笑わせて。すべて彼女たちと田中工務店の手のひらの上で転がされている感じだ。

 
文字数が多くなりすぎるので割愛するが、他にもバンドサウンドの完成度、現地スピーカーの心地よさ、フォトリアルなCGセットの作り込み、痒いところに確実に手を届かせてくれるカメラワークなど、彼女たちのライブは語るべきところが多い。そんなすべてのピースがかっちりハマって、見る者の心を確実に動かしてくれる。本当に芸術的だ。

この体験の美しさは写真だけでは伝わらないので、ぜひアーカイブで目撃してほしい。チケット価格はニコ生LINE LIVE-VIEWINGともに8080円で、2月21日まで視聴可能だ。

 

●セットリスト
M1.Opening:約束の血
M2.Introduction:生命の声
M3.藍の華
M4.相思相愛リフレクション(新曲)
M5.ヒトガタRock
M6.ヒバリ
M7.ライライラビットテイル
M8.琥珀の身体
M09.溺れるほど愛した花
M10.夢景色
M11.アスノヨゾラ哨戒班(Remix)*
M12.アウトサイダー*
M13.ベノム*
M14.ロキ*
M15.夜に駆ける*
M16.キセキ色
M17.ユメミテル
M18.Bridge:HIMEHINA SINGLE Medley
M19.うたかたよいかないで
M20.ララ
M21.アダムとマダム
M22.ヒトガタ
M23.My Dear

*アンコール
M24.フリコドウル(新曲)
M25.劣等上等*
M26.水たまりロンド
M27.Mr.VIRTUALIZER

*はカバー曲


(TEXT by Minoru Hirota



●関連リンク
藍の華(ニコニコ生放送)
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