花譜プロデューサー・PIEDPIPER氏に聞く「不可解弐 Q1」 コロナでもやめない新しい表現への挑戦

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新型コロナウィルスが人類に突きつけた「新しい生活様式」は、さまざまな業界に影響をもたらしている。VTuber業界も例外ではない。今年2月頃まで頻繁に開催していたリアルイベントは次々と中止に追い込まれ、今や大半がオンラインで開催している状況だ。

バーチャルシンガーとして注目を集める花譜も、明日10月10日、2ndワンマンライブ「不可解弐 Q1」をオンラインにて開催する(ニュース)。

彼女自身、今年3月のZepp DiverCity(TOKYO)から無観客で中継した「不可解(再)」、6月のカバー曲ライブ「アイスクリームライブ」とオンラインライブを重ねてきたが、続く「不可解弐 Q1」では「バーチャル空間から中継」という表現を使っている。バーチャル空間からの中継とは何か。その背景にはどんな挑戦があるのか。彼女のプロデューサーであるPIEDPIPER氏に聞いた。

「自分の人生を10年かける意味がある歌声」 プロデューサー・PIEDPIPER氏に聞く花譜の魅力とVTuberの今


コロナの中でも「攻め過ぎで行きたい」

──もう半年前の話ですが、3月にリアルで実施予定だった「不可解(再)」が無観客での中継になってしまいました。PIEDPIPERさんがTwitterで悔しい思いをぶつけていたのが印象に残っています。

PIEDPIPER(P) コロナウィルスの感染者数が増えて、どうしてもリアルでの開催が厳しくなってしまいました。本当は通常通り集客が出来てグッズ収益を見込めていれば、ライブを全編無料でライブ配信する方法をかなり真剣に検討していました。しかし、無観客になる以上は大赤字になってしまう可能性もあったのでさすがにこれは断念しました。演出という意味でも、急に配信に切り替えた事で詰めきれてない部分もありました。

 
──「不可解(再)」も映像や音楽をかなりブラッシュアップしていて、さらにサプライズのコラボもあって、普通に楽しめましたが……。

P 配信がメインとなると、ネットで見やすいカメラアングルや演出を追求する必要があります。ただ現地でのリハの時間が絶対的に足らず、配信としての絵づくりを納得がいくまでは追い込めなかったんです。花譜本人はすごく頑張ってくれたので、そこにはまったく不満はないのですが……。本人のパフォーマンスの問題ではなくあくまでもプロデュースする側の問題だったため、力不足で申し訳なかったですね。

 
──切ないです。その最後で「不可解(再)」の最後で予告したのが、「不可解弐」でした。

P 「不可解弐」は元々、今年8月の開催を予定してましたが、新型コロナウィルスの感染状況を見るにリアルライブは到底無理で、バーチャルライブに転換しない限り、そもそも実施自体ができない状況でした。元々、2daysで、しかもまったく異なる内容を構想していたんです。

 
──それが10月の「不可解弐 Q1」と、2021年の「不可解弐 Q2」に分けての開催となったという。

P はい。リアルライブ自体のライブ制作が重かったところに、バーチャルライブという新しい負荷を上乗せすると、どう考えても1日分しか準備出来ないかなという。非常に悩みましたが、2部構成で1回というイメージだったので、本人とも話して当初からの日程をずらしてQ1とQ2に分ける事になりました。

 
──去年からの構想が、全部新型コロナのせいで全部仕切り直しになってしまったという。

P そうですね。改めてゼロからの再スタートとなったので非常に大変ではありましたが、やるならもう楽しんでやるしかないのかなと。

あとひとつ大きいところの方針転換では、計画していたクラウドファンディングを急遽中止したことです。

 
──「観測者」(ファン)のみんなは喜んで払うと思います。

P これはなぜかというと、音楽業界ならライブハウスだったりとかライブ制作会社とか、
もちろんアーティスト本人もですが、本当に今運営に苦しんでいる方々が実施しているクラウドファンディングにまずはお金がいくべきと考えたんです。当然ではありますが……。「みんなでつくるライブ」という意味でのクラウドファンディングはいつかまたやりたい。でも、今はちょっと辞めざるを得ないなと。これは今回実現できなかったことのひとつですね。

心残りとしてはもうひとつ、渋谷PARCOさんとのコラボレーションのギャラリー「3.5D by KAMITSUBAKI STUDIO × PARCO」も当初から「1年限定で終える」ということは決まっていたのですが、本音を言えばもうちょっと延長してやりたかったですね。

 
──NTTドコモとコラボした「HAYABUSA EXPERIENCE by 3.5D × docomo」も、現地の準備まで整っていたのに急遽オンラインでの開催になるなど、本当に直前で方針転換を迫られて大変だという印象を受けました。消化不良ですよね。

P 全然消化できてないですね。一応、8月から「『CONNECTED OVER THE DIMENSION』展」、9月から「花譜展2」を開催しています。ビジネスとしては予想より厳しくなると思いますが、ファンのみなさんにこの状況下でも少しでも楽しんでいただけるように1年間はやりきります。

 
──バーチャルシンガーというバーチャルの存在でも、リアルの情勢が影響してくるのが世知辛いです。

P 僕としては、リアルでのライブこそが花譜のよさを出せると当初考えていたんです。バーチャルシンガーだからこそバーチャルライブ中心でやりそうなところを、あえて今は推進しないというのが「僕らなりのアンチテーゼ」でした。しかし、新型コロナの影響でそこを諦めざるを得なくなってきた。じゃあ自分達なりのバーチャルライブとは何かと考えた時に、既存のバーチャルライブ系プラットフォームさんが複数ありますが、それを使うのがはたして最適解なのかどうか?と問いかけて、結局CGとプログラムの両方が出来るCG会社さんと組んでバーチャルライブ空間自体をゼロから創ることにしました。

 
──えっ、配信用のライブステージからつくってるんですか!? それはめちゃくちゃ大変ですね。

P そうですね。本当はプラットフォーム自体も産み出せたら更にいいのですが、時間もお金も全然足りないので、まず自分達のライブだけに特化したバーチャルライブ空間を創ろうという話になりました。今後、他の自社アーティストでもライブができるようにしていきたいので、まずは箱からつくっています。そして今回普段リアルのスペースデザインを手がけているデザイナーの方と一緒に設計しました。これもぜひ楽しみにしてもらえたら。

 
──リアルからバーチャルへの180度の方向転換ですね。

P そうですね。新型コロナの影響でいえば、バーチャルライブだけではなく、KAMITSUBAKI STUDIOでもやってきたYouTubeファーストなレーベル運営、D2C、クラウドファンディングやライブの無料配信などが、良くも悪くも当たり前の世の中になってきたところがあります。自分達がこっちのほうが最適解じゃないかと考えていた方向に、一気に世の中がシフトしてきた訳です。正直やや戸惑いはありましたが、じゃあ次に何をやるべきなのかを考えるいいきっかけになりました。

 
──エンタメビジネスにおける「新しい生活様式」のさらに先を考えるという。

P 今までもリアルのアーティストが微妙と思うルール違反をあえて僕らはやってきました。それがある程度みんな同じ方向に向いてきたので、じゃあ僕らは今何を仕掛けるべきなのか?と毎日考えています。

VTuberシーン自体は過渡期だと思っています。生配信ビジネスを中心に引き続き景気がいい流れもありますが、同時にマネジメント的な側面で色々厳しいことが起こったり、ともするとファンが離れていったりする流れも出てきてますが、バーチャルシンガーやバーチャルアーティストみたいな「在り方」はむしろこれから出来る事が増えるのかなと思っています。本来はアーティストの可能性を拡げれる素晴らしい仕組みだったはずですから。

だから僕らは独自にもっと理想のバーチャルアーティスト像を追求していきます。その先には物理的距離をも飛び越えて国境や国籍などにも縛られず自由に活動を横断出来る「次世代のアーティスト像の実現」があるのではないか?と本気で信じているからです。

そして新しいことをやり続けて失敗したり、たまに成功したりしてそれを見て「このやり方いいよね」と思ってくれた人が真似をしてくれて、さらにいいものが産み出されるという好循環がつくれたら、僕たちもこのシーンにようやく貢献が出来たと言えるんじゃないかと。その時には僕らがやってることはもしかしたらVTuber、VSingerという名前とは違う「別のなにか」になってるかもしれませんが、それはそれで良いのかなと思ってます。だから守りに入らずなるべくリスクを取っていきたいと思っています。


「自分たちで二次創作をしている」

──そもそも「不可解弐 Q1」の「Q」とは何の略ですか?

P QuestionのQです。

 
──それは1stワンマンライブ「不可解」への問いかけという?

P いや、もともと自分達は答えではなく「問いをつくる」ということをテーマにしていて、そこから取っています。それこそバーチャルライブハウスも「Q」のひとつで、手探り状態ですが、ちょっと1回やってみようかという。

 
──先ほどの「攻め過ぎ」という話にも通じますが、ライブ自体のあり方に「Q」を突きつけるという姿勢は過去の公演からも感じました。「不可解」では「ここからが本番」というぐらいにアンコールが濃厚でしたし、「不可解(再)」は会場アナウンスがヰ世界情緒さん、「魔女」で春猿火さんとコラボとKAMITSUBAKI STUDIOメンバーのサプライズ出演が印象的でした。

P そうですね。今回もいくつかのコラボを考えています。あと「Q」という話でいえば、ファンのみなさまへの問いかけになるかもしれない、花譜の新しい取り組みも今回のライブ内で発表予定です。

 
──今から期待大です。KAMITSUBAKI STUDIOといえばオリジナルIPプロジェクトの「神椿市建設中。」があります。花譜ちゃんはシンガーとしての側面だけでなく、「不可解」のアンコールで出てきた「御伽話」のようにいくつか物語を背負って展開している印象も受けますが、「ファンへの問いかけ」というのはそんな神椿市に関係した話でしょうか?

P そうですね。KAMITSUBAKI STUDIO自体、いろいろな物語が横並びで派生していっていて、現状はいろいろ手探りでやっている感じです。

「神椿市建設中。」は、「御伽話」とはまた別の花譜から派生したプロジェクトで直接的にはつながってはいません。「神椿市建設中。」は複数人のクリエイターが関わっている企画で、まずはそこまで大規模ではないインディゲームをつくっています。実はゲーム自体はだいぶ出来ていたのですが、コロナの影響で仕様を大幅に変更しているのでもう少し時間がかかりそうです。そして「御伽話」は僕が個人で演出している演劇に近いです。花譜は演技をするという才能も実はかなりあって、彼女自身演技にはかなりの本気度で取り組んでくれています。彼女の演技ってなんというか変な迫力があって、とても面白いんですよね。本人もすごく楽しいみたいです。

 
──お話を聞いていると、なんだか最初からゴールが見えない「Q」という印象を受けました。

P ここ一年間くらい僕らが何をやってるのかなとずっと考えてたんですが、物語を創ることって基本的に手探りなので、「中間のもの」が産まれたりすることもあります。なんというか自分たちで二次創作をつくっているのに近いのかな。

例えばですが、大人数を統括して明確な締め切りのあるひとつのアニメーション作品を産み出しているのではなく、色々な人と沢山の小さい物づくりをしながら一年中可能性を探っているというか。まったく一緒ではありませんが、僕らのやり方って「東方Project」とかの在り方と近いものを、部分的にですが感じたりもしています。今回の「不可解弐 Q1」における皆さんへの「Q」でも、二次創作を促進するものがひとつ存在しています。

 
──気になります! 物語という話でいうと、花譜ちゃんは「魔女」のようにVTuber自体を扱った作品や、「そして花になる」のように素の彼女を表したものもあります。両方、自分のことを歌っている歌というのが面白いところです。

P 「魔女」は花譜にとって大事な曲です。仮想世界やVTuberをテーマにしているだけでなく、「人工的な存在でも生きているんだ」「運命は変えられる」といったメッセージが実は込められています。この「魔女」に連なる曲が「不可解」で歌った「祭壇」と、「不可解(再)」の最後で披露した「宣戦」です。

一方で「不可解」で披露した「そして花になる」は、カンザキくんが花譜自身にインタビューして作り上げた、等身大の彼女の歌です。花譜には普通の女子高生という側面もあって、これがすごく素敵なバランスなんですよね。だからシリアスなことを歌っても普通に女子高生らしいふざけかたをいきなりしてくるし、変なぽんこつ感もあったりして、ちょっと戸惑う時もありますが、そうしたところが運営サイドから見てもすごく素敵だなと思います。普通に面白い子なんです。

 
──「不可解」のときは今挙げられていた作品を含む7曲の新曲ラッシュでした。またモーションタイポグラフィクスなど映像面でも表現が新鮮でした。今回も期待してもいいでしょうか?

P その辺はぜひ明日の公演で見てください。音楽も映像も文字通り総力をあげて作り込んでいます。クリエイティブという視点に立ってみると、ある意味本当に効率が悪い「不可解」で馬鹿馬鹿しい作り方をしています。通常のクライアントワークでは絶対やらないことを今回やっていますね。でもなにかを突破する時って自分達の今までの常識を逸脱しきらないと駄目だと思っていて。プロとしての視点をある意味捨てきることでひらけることもあります。なので彼女がライブをする環境は整えてはいるものの、結局花譜がアーティストとして「どうパフォーマンスできるか」がすべてなので、結局ライブ当日になってみないとわからない部分も多々あります。

ここから先は本当に彼女自身の頑張りでしかないのです。きっとやりきってくれると僕は信じています。だって今までが奇跡の連続だったので。

10月10日の19時、バーチャルライブにお越しいただき、ぜひ花譜とKAMITSUBAKI STUDIOの「Q」を目撃してください。

 

●花譜 2nd ONE-MAN LIVE「不可解弐 Q1」
・開催日時:2020年10月10日(土) 開場19:00、開演 19:30
・アーカイブ配信期間:公演終了後〜2020年10月11日(日)23:59
・チケット:一般「天体観測チケット」7000円


(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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