理芽、3rdワンマンライブ・NEUROMANCE IIIレポート 「オルタナかわいい」など二面性の魅力に酔いしれた一夜

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バーチャルシンガー・理芽による3rdワンマンライブ「NEUROMANCE III」が9月15日にTOKYO DOME CITY HALLで開催された。

前日には花譜とともに「Singularity Live Vol.3」を盛り上げた理芽は、この2日間自身にとって初の有観客・現地ライブを完遂するためにフルパワーで臨んだ。エネルギッシュにステージでパフォーマンスし、天真爛漫な自分自身をまっすぐに客席にぶつけ、我々につよい高揚感を与えてくれる会心のライブを披露してくれたのだ。

そんな満ちた2日目をレポート、そしてレビューしてみようと思う。

高揚感へと誘われた理芽初の有観客ライブ

17時半になり定刻通りにスタートしたライブ。スクリーンにはムービーが流れ始める。

地面に空いた丸い入口、その前に立つ理芽。赤と青緑に彩られた禍々しさのある洞窟の中、地下へと続く階段を降りていき、その背中に大きな波や渦が集まる。その大いなる渦を、指揮者のタクトのように腕をふるって操り、両手をギュッと握った瞬間にタイトルがドンッ!と出される。KAMITSUBAKI STUDIOのライブでは毎回こういった壮大なムービーが流れていくが、今回はカオティックな意味合いを感じた。

彼女にとって大事な1曲目に歌い始めたのは「NEUROMANCE」。理芽が制作してきたアルバム名であり、長く続けてきたソロライブにも使われているタイトルだ。筆者としては「食虫植物」と同様、理芽の代表曲だと感じている。

続く「ピロウトーク」では、青・赤のペンライトが1拍置いて振られていく。この冒頭2曲は、この日のバンドアンサンブルがいかにロック寄りなのかを伝えてくれる。ギターアルペジオがところどころに印象的なかたちで挟まり、ダブルギター編成による厚みあるギターサウンドが心地よく鳴っている。

前日のレポートでもお伝えしたが、引き続き理芽のボーカルは絶好調で、笑顔のままステージの左右を行ったり来たり。歌う際はセンターポジションに戻ってはいるが、そのフラフラと歌う様子からは無邪気さが垣間見えた。

さらに3曲目「クライベイビー」、4曲目「胎児に月はキスをしない」とシームレスに歌っていく。「胎児に月はキスをしない」では、ベースとドラムスのみの簡素パートから、ギターのヘッドピーン(ギターのヘッド部分にあるナットとペグの弦を思いっきり弾くこと)でアンサンブルが固まっていく流れが印象的だった。ロックバンドらしさに溢れたワンシーンは、観客に大いに受け取られただろう。

そんな中においても理芽は「いつも通り」といった風にステージに立っている。衣装は、スタート時は「Childhood’s End」だったのだが、4曲目後に暗転から照明が戻ると「The Crack in Space」にシレッと着替えていた。

「ありがとうございまーす!どうも!理芽でーす!」と挨拶をすると、ここまでのハードな演奏に熱くなった観客から大きな返事が上がる。

「さっきなんて叫んでたの?『大好き』ね?(歓声がいくつも重なる)ああー、ありがとう! 褒め言葉なのは伝わる!」

「ちなみに東京から来たっていう人! 地方から来たっていう人! 海外から来たよっていう人! ありがとう!」

観客の歓声をちゃんと聞こうとする理芽は、自身から話しかけるのではなく、観客からの声にも返そうとする。このやり取り自体はライブでいうと当たり前の風景なのだが、彼女がインタビューで話していた「ミュージシャンらしさ」に通じるところだ。

MCを終え、「ファンファーレ」では鍵盤の音色がメロウなムードを醸し出し、七色をうまく生かした照明とムービーが会場を染めていく。パラッと弾いていく鍵盤とドラミングでキレイにハマって締まった直後、すぐに「ルフラン」のエレクトロニカなサウンドが流れていく。

ツルっと滑らかな声で歌う理芽は、腕を大きく広げたり、腰を落としたり、背筋を伸ばしたりと、体全体を動かしつつステージ左右を歩く。その声色、ドラム担当・GOTOによるシャープなドラムビート、体の動きが相まって、ミドルテンポな楽曲ながらも躍動感を会場に与える。

柔らかな打ち込み音から生ドラムへと引き継がれて「インナアチャイルド」がスタートすると、理芽のボーカルとエフェクトのかかったコーラスが重なって、心のなかに生まれた軋みを表現していく。続く「生きているより楽しそう」は、ダブルギター編成をフルに生かし、ギター担当の伊藤翔磨と高橋柚一郎の2人によるリフ&アルペジオの絡みがバンドをリードする。

ステージを歩きながら強弱をつけてボーカルをとる理芽は相変わらず。モノクロな映像とも相まってロック色を全面に出したパフォーマンスには、自然と観客から掛け声が上がったほどだ。

暗転してパッと照明がつくと、観客側に背を向けて水を飲む理芽の姿が。しかも「Counter-Clock Wolrd」衣装へと早着替えを済ませており、「女神みたいでしょ? まじまじと見たことないでしょ?」とドレスで大きく伸びた裾を見せつける。「そっちで回ろうか?」とステージ左右に歩いて一回転するなど、ファンサービス増し増しだ。


「続いては、懐かしソングゾーンです」と話してから歌い始めたのは「宿木」。ジャズらしいテイストのスローナンバー、理芽の頭上に登場したミラーボールから反射していく光線とともに、会場を惚けさせてくれる。

そのスローナンバーな空気を汲んだ「どくどく」は、どこか原曲よりもロマンティックに感じられた。背景には、キャンディ・心臓・ハート・DNAを模したオブジェクトがおどろおどろしく表現されたムービーが映し出される。鍵盤の打鍵・音色、ダブルギターの緩やかなコードストロークと響き、理芽のビタースウィートな声色が混ざりあう。楽曲に込められていた狂おしさや無能感が、より濃厚に煮詰められた空間が生まれた。

そんなヘビーなムードを受け取って「いたいよ」を歌い始めると、ここまでの「宿木」「どくどく」で生まれていた重々しく秘めていた感情のほどばしりが、徐々に漏れ出ていくような感触が生まれていく。怖がりで幼い感情を少し明るめに紐解くこの曲。こうしたライブの場では、絶妙な角度・温度感で心を動かしてくれる1曲なのだと改めて気付かされる。

そんな空気も、「甘美な魔法」のアコースティックギターの音色・ギターカッティングでスパッと切り替わる。よく見ていると、伊藤・高橋ともに音色は変えて、単音リフ・コードカッティング・ソロとで被らないようにし、印象的かつ力強くバンドを引っ張っているのがわかる。シャープなドラミングによる推進していくアンサンブルに、理芽もノリノリで歌っているのが伝わる。

「みんなもお水飲んでね。……今日もやっちゃうか! みんな持ってるよね。TDC!(会場のある東京ドームシティのこと)DAY2!最高!かんぱーい!」

昨日に引き続いて理芽と観客での乾杯タイム。「もっと盛り上がるためにウェーブをしよう!」と理芽が提案し、会場の左から右へ、右から左へとウェーブを求めて、無事に成功。中盤を迎えてムードはかなり温まっている。

そんな中で始まったのは「さみしいひと」だ。「タンタンタンタタン」というおなじみのリズムをハンドクラップし、ベース&ドラムの太いボトムサウンドに理芽が力感なくボーカルを寄せる。隙間を生かしたグルーヴィーなノリに、ここぞとばかりにギターソロも炸裂。

みんなにとってわかりやすいリズムが来たなら、次はみんなにとってわかりやすいメロディと歌詞を。そういった手合で「食虫植物」のイントロが始まる。「あの曲がやってまいりました。みなさん? 歌えますよね?」と煽る声。ステージの彼女に合わせて、両手を振りながら歌う観客たち。

太いドラミングに理芽のボーカルがたおやかに寄りかかり、そこにノイジーなギターサウンドが不意に重なっていく。こうしてライブで見ると、笹川真生の楽曲にコーラス系エフェクターが随所に使われており、不穏・不気味なムードと甘くメロウな音色が同居した世界観がしっかりと描かれていることが伝わってきた。

「ライブも後半戦に入りました。私のデビュー曲です。『ユーエンミー』」

不気味さや奇妙さを色濃く感じさせながら、歌われる自身のデビュー曲。思えば初日から、理芽の照明には赤・ピンクの照明が多く使われている。もちろん彼女の衣装やビジュアルに合っているというのもあるが、笹川が生み出す楽曲の”生々しさ”を強調させるのに適しているという理由もあるのだろう。

「ユーエンミー」を歌い終えると、スクリーンにムービーが流れる。門番のように座っていた理芽が、門の向こう側へと飛び降りる。赤い大魚に、大きな花。花びらが大きく開いた中に彼女が沈んでいくと、新衣装「Dr.Futurity」を着て登場した。花の中からさらに開花したかのような表現に、観客が大歓声で迎える。

新衣装一発目として歌唱したのは「えろいむ」。歪んだサブベースのサウンドにバンドサウンドが混ざって組み上がったエレクトロ&ロックなサウンド、彼女の新衣装を祝うかのように力強い。リズムに合わせて左右にかるくステップする理芽に合わせて、自然と「オイ! オイ!」と会場から声が上がる。

法螺話」では悲しげなニュアンスを残したボーカルが印象的で、「十九月」では淡々と叩かれるドラムに、2人のギターがアルペジオで彩りを加えていく。ポエトリーリーディングする理芽と鍵盤の音色もあいまって、センチメンタルな感情や無情なやるせなさを呼び起こす。

新衣装となってからの初MCでは、会場中から「かわいい!」の声援が飛び交った。後ろ姿を見せながら、見どころをこう話す彼女。

「あたし、初めて、髪の毛を伸ばしてみたの!」

後頭部から細く長く伸びた襟足は、くるりと反転したり動いた際にはかなりのチャームポイントとして目に映るだろう。だが筆者の独断で言うなら、むしろこの新衣装・髪型で驚くべきは「さらに短くした」点ではないだろうか。このビジュアル変化が表面化させたことについては、後述していこうと思う。

この日のバンドメンバーを紹介したあと、「おしえてかみさま」へとスムーズにうつっていく。あのキャッチーだが不気味なシンセサウンドが、バンド隊の力も相まってよりトランシーな感触となって会場を魅了していく。昨日のライブよりもずいぶんとダンスチューンらしくアレンジされつつ、メロウな響きを残して会場を盛り上げた。

続いては、こちらも印象的なリフがイントロにある「フロム天国」。甘く丸っこい音色のギターが2つ重なったイントロやフレーズを軸にし、紫・ピンク・青・赤のライトが会場を包む。儚げだけどもどこか愛らしさある理芽のボーカル、新衣装・ビジュアルもあってうっとりとさせられてしまう。

「この曲! 最後になにがあるか分かりますか? 一緒に指パッチンしましょう!」

理芽のボーカルと鍵盤から始まり、ダブルギターのリフが絡み、キックドラムが鳴らされ続ける。そんなパートでも観客から「オイ! オイ!」と自然と声があがる、会場の高い熱量が理芽とバンド隊を盛り上げていく。Bメロではクラップが入り、ビルドアップからブレイクして開放感あるサビへドロップ、笹川&理芽流にハウスミュージック~EDMのマナーを踏襲したこの曲で、観客はみな心地よくなっただろう。やはりライブ映えする一曲だ。

「あのさ、昨日も聞いたんだけど、理芽のお面持ってる人いる? 見せてくれない?」

そんな理芽の問いかけに、かなりの数観客がお面を上に掲げる。「えぇ!?すごい!」「いやなんか赤いもん、ここから見える景色が。ありがとう!」と協力に感謝する。

本編最後に披露したのは「やさしくしないで」。「今、優しくしてもらったばかりなのに!」なんてツッコミは野暮だろう。鍵盤の音色がリードする甘くメロウで穏やかなサウンド感は、どことなくドリームポップのよう。この日一番にクリーンさを漂わせるサウンドとパフォーマンスで、本編が締めくくられた。

実した2時間ほどの本編を終えると、当たり前のようにアンコールを求める声が会場中からステージに集まった……のだが、なぜか「アンコール」が「りめち」の3文字へ変わっていった。これには思わず会場から笑いがおこるものの、先にステージに戻ってきたバンドメンバーらが煽ったこともあり、構うことなく「り! め! ち!」と呼ぶ声が続いた。

そんなアンコール明けの1曲目は、ラウドなギターからスタートする新曲「きみが大人になったんだ」だ。三連符のメロディと言葉遊びや韻を踏んだ歌詞は、大人びた君を想う優しい目線の歌だ。終わりは机に青白い蝶が舞うシーンのムービー。まるで春の木漏れ日を思わせるような、鮮やかな情景が思い浮かぶ1曲だ。

「いきなり知らない曲をやってびっくりした?」(びっくりした!の返事に)「よっしゃ!」

「アンコールをスタンバイしてる時さ、『初めてアンコールを聞けたな』って。めっちゃ嬉しかったよ。」

ウキウキな表情でライブについて、新曲について、グッズについて次々に話していく理芽。ひとしきり話し終えた彼女は、「彼女自身が考える生き方」について話し始めた。

「あたし、たまにふっと思うんですよね。なんのためにあたしって生きているんだろうって。歌うためかな? 親のためかな? 誰かを愛するためかな? とか、でも結局どこ探してもハッキリとした答えって見つからない。その答えって、死ぬ間際じゃないと見つからないんじゃないかと思っている」

ライブを開くにあたって考えてきた話題を、ポツポツと話していく理芽。なるたけ精確に言葉を発しているが、呼吸の置き方や言葉の選び方を見れば分かるように、なにかしらの作られた台本ではなく、彼女の頭にあるフィーリングを直情的に話しているのが伝わってくる。

実はこのMCは約8分ほどつづき、下手すれば2曲分くらいの時間を使っていたパートだ。SNS、配信、音楽とさまざまな形を通してメッセージを送ってきた理芽ではあるが、自身にとって有観客ライブは今回が初めて。すなわちそれは「自身のファンと直接的にコミュニケーションを取れる」ことすらも初めてであったことを意味している。

そんなチャンスを逃すまいと、自身の言葉で生活や生き方を語りつつメッセージを送ろうとした。それほどまでに、彼女にとっては代えがたい手段・時間としてこのMCが作られていたのは想像できる。

そんな大切なMCの次に披露したのは、セカンドアルバムに収録された「百年」(ももとせ)であった。


何も言えずに死んでくくらいなら
いつかちゃんと憎めるように
違うな
いつかちゃんと愛せるように
目を開けて
百年後のイヤホンが欲しい
もう少し静かに鳴るだろう
病名もつかない気がする
お前も楽になるだろう
人生が誰のものだとか
簡単なこともままならない
カーテンがそよいだ気がした
ささやかに


彼女の楽曲でも一番に低い音程を丁寧になぞりつつ、揺らめくような響く歌声。触れればすぐに割れてしまいそうな希望を、優しくなでるように歌う。鍵盤がメインを伴奏、ダブルギターはふわりとしたシューゲイザーらしいサウンドで、このスローナンバーの手触りを上手く表現した。


本日最後の曲として披露したのは「狂えない」だ。理芽からの「この曲は、ちょうどこの季節にピッタリかもしれない」という一言があったものの、筆者は「煮えきらないまま夏が終わってしまった」という出だしでいきなり胸を打たれてしまった。

硬質なギターリフがアップテンポに刻まれ、曲が進むに連れて徐々にテンポを大きくとっていく。ここにきてこの日一番のまっさらでストレートなギターロックが会場に鳴り響く。ラストに飾るためにヒネリを効かせたり、大げさなストーリーを表現するのではない。

ステージ上でも銀テープがバシュッ!と発射されることもなければ、天井から花びらやシャボン玉が飛んでくるような、感動をもり立てる演出もない。理芽も、スクリーンの真ん中で光りに包まれてパッと消えるわけもなく、「ありがとう! また会おうね!」と会場に言い残して下手からステージを去っていく。約2時間20分ほどの末、「普段通りの自分自身」でゴールを切ろうとするピュアな感触とともに彼女らしく終幕を迎えたのだった。

終わってみれば、ボーカリスト・理芽の才能だけではない、快活で気持ちが前のめりになりやすい女性・理芽としての魅力をも存分に振りまかれたライブであったと感じた。笹川真生の音楽をフルブーストし、ミドルテンポなグルーヴのなかでエモ/シューゲイザー/ラウドロックが箇所箇所で顔をのぞかせ、シティポップ/シンセポップ/ハウスミュージックなど楽曲に込めていた趣向も、潰されることなく表現されていた。

約5年の月日が経過し、留学などを経験した1人の女の子は、女性へと変わっていった。きっとデビューした当初ではアンコール時に語っていた「生き方」の話はできなかっただろうし、今日のようなアグレッシヴな音の中でも埋もれていたかもしれない。

そう考えれば、以前よりも短く耳元で揃えたボブカットが非常に様になって見えてくる。理芽はグッと大人になった。しかし、その裏にある無邪気さはほとんどなくなることなく、自分らしい歩みを踏んでいくのだろう。

理芽のライブを「Review」する

世間的に音楽雑誌やメディアで書かれているライブレポートというのは、演出や曲順にあわせて時間順に書いていくことがノーマルで、読み手も順繰りに読みやすいためそういった形に落ち着いている。

実は先程まで読んでもらったライブレポートの前に、どうしても書きたかったことをツラっと書き出している。なぜだろう。普段の形で書くには、自分の感覚をうまく形にできない気がしたのだ。俗っぽく言えば、据わりが悪いとでもいうのだろう。

なので非常に申し訳ないが、ツラッと書き出した部分をつかいつつ、ここからは普段よりも砕けた文体・違った流れで書いていこうと思う。これはライブの「Report」するためではなく、より深く楽しむための「Review」としての文章として読んでほしい。

先日筆者は理芽にインタビューをさせてもらった

こうやってインタビューとして、文字として読むとすんなり彼女の語りたいことが伝わってくるだろう。それと同時に、人と会話しているとなんとなく「この方はこういうタイプかな?」と感じられる瞬間があるのだが、理芽は会話の話題があっちへこっちへとうつりやすいタイプだと感じた。これは彼女のライブ配信を見たことがある理芽ファンであれば何となく伝わるかもしれない。

いきなりポンッ!と解答が届けられて理路整然と話し出すこともあれば、「それは……うーんどうなんですかね?」と答えに窮することもあり、「◯△□かも!~~(すこし時間が経過する)やっぱり□◯◯□△なのかも?」と話すうちに答えが変わったり。

もっと根本的かつ一般的に、一度話し始めればとまることがないタイプだっている。会話があっちへこっちへとうつりやすいタイプの方は「その瞬間の奔流・勢い」でトークすることが多い。

筆者から見て理芽もそういったタイプじゃないか? と感じたのだ。たった1度しか会ったことのない人になんてことを言うんだ!と思われるかもしれない。とはいえ、筆者もVTuber~バーチャルタレントを書きつつ、音楽やアニメについての記事を書くことを主にしてきた。一般職に就いていた頃も二足のわらじでライター業をしており、いくつものバンドやシンガーの話しを聞いてきている。その経験の中で、なんとなく感じたことがある。

筆者の経験上、ボーカリストは自身の想いをハッキリと口にし、その瞬間の勢い・パッションで会話する方が多い。すこし言葉が行き過ぎたらその場で多少の訂正をいれつつ、言語化しようと試みているし、その後にインタビューとして会話をまとめるのは確かに苦労するのだが、同時に、見ていても聞いていても面白い方が多いのだ。(たまたまなのかもしれないが)

そもそもインタビューとしてハキハキと口語体でしゃべる人間なんて、ましてや1から100まで理路整然としゃべりだす人間なんていない、いたらAIかなにかだろう。なにはともあれ理芽は、かなりパッションで会話していくタイプのシンガー/ボーカリストだった。

そんな彼女の共犯者・笹川真生は、ボカロ出身にしてインディ界隈で活躍を続ける音楽家・トラックメイカーである。実は筆者は笹川真生のことを2019年頃から知っており、「官能と飽食」「ペーパームーン」が好きで、自分が参加しているインディミュージックメディア・indiegrabPlutoプレイリストメディア・Plutoの面々に話していた。

ミドルテンポ〜スローテンポを主体とした楽曲が多く、静寂からいきなり爆音で鳴らされるノイズギターを炸裂させる。USインディ~オルタナティブロックにとって一番の武器を、笹川はとても上手に音楽の中心に据えている。

少し突っ込んで言うのであれば、そのギター主体のサウンドメイクは海外のバンド・ミュージックから多大な影響を見ることができる。American FootballやMineralなどのMidwest Emoのようなギターアルペジオや、My Bloody ValentineやRIDEといったシューゲイザー、Neutral Milk HotelやPavementのようなUSインディー界隈におけるローファイ~インディポップのようですらある。

BPMが高かったり、スピード感を求めて疾走感があるわけではない。ゆったりとしつつテンポ感が強く押し出されたドラム&ベースのボトム隊に、ギターサウンドなどがメロディと音色を駆使して変幻自在にサウンドを彩っていく。

ライブ後に笹川自身がThe Flaming Lipsについて言及していたが、彼らは1983年頃から活動をスタートさせたUSインディー界隈の重鎮である。

この日のライブではダブルギター編成による厚みあるギターサウンドがそういった側面を鋭利な形で表現していた。

セカンドアルバム「NEUROMANCE II」にはシティポップやエレクトロポップから影響を受けて「オルタナかわいい」(理芽発案の言葉)な楽曲が多くなったが、本来シティポップやエレクトロポップ関連の曲はあまり冗長なソロなどは入れず、必要最低限・ムダを一切省き、機能性を求める傾向がある。あくまで、同じフレーズを何度となく演奏して生まれるグルーヴに重きをおかれる。

その点をみてみると、セカンドアルバムでは楽曲途中やアウトロの部分で長く尺をとってメロディやソロが流れていることが多い。アンサンブルからはみ出るソロ、噛み砕いて言えば、機能性を重きにしているはずがエモーショナルな一面を隠しきれずにところどころで漏れ出ている、そんな風に感じられるのだ。

ある種、直情的な理芽の在り方とノイズ&エモな部分がキモとなった笹川真生の2人。こうしてみると筆者にとっても好きなタッグなんじゃないかと改めて気付かされる。

理芽&笹川だけでなく、この日のバンドメンバーにも目を向けてみる。

2019年からKAMITSUBAKI STUDIO関係のライブでキーボードを務め、現在ではバンドマスターを担うことの多い及川創介。及川とともに最初期からKAMITSUBAKI関係のライブでギターを務めている伊藤翔磨。及川とおなじThe Roomiesでギタリストとして活動している高橋柚一郎。アカシックのベーシストであり、人気ソロアーティスト・WurtSでのサポートベースも務めている黒川バンビ。DALLJUB STEP CLUBや礼賛、あらかじめ決められた恋人たちへなどでドラムを務めるGOTO。

バンドシーンで長く活動しているだけでなく、サポートメンバーとしてここ1年で音楽フェス・ライブにひっきりなしに呼ばれるような最前線の腕利きバンドマンが参加しているのだ。しかも彼ら4人は、もともとR&Bやクラブ系のサウンドを意識したバンドを組んでおり、そちらのほうをメインにしている面々だ。

前日「Singularity Live Vol.3」も同様の編成でイベントが開催されていたわけだが、伊藤と高橋によるダブルギター編成を活かし、楽曲によっては高橋は6弦ギターではなく多弦ギター(おそらく8弦ギター)を使う場面もあるなど、思いっきりロックサウンド/ギターサウンドへの偏りを色濃くしていた。

話をまとめれば、理芽という直情型なボーカリスト、笹川真生というギターサウンドへのこだわりやエモーショナルさを滾らせたクリエイター、バンドシーンで活躍する面々で構成されたバンドメンバー陣が、ロック色の強い音作り・アレンジメントでライブをしたという格好だ。

本来鳴らされるべきロックギターの爆発力をうまく活かし、理芽のボーカル/パフォーマンスを映えさせることが狙いだったのはいうまでもない。少なくともこの日のライブにそうした狙いを企てたのは、ほかでもないKAMITSUBAKI STUDIO統括プロデューサー・PIEDPIPERだ。

ここで記されている「オルタナティブ」という言葉に戸惑った人たちは、「もしかして花譜における『廻花』みたいな存在がでてくるのか?」などと考えたのかもしれない。ライブを見終えた後に読んで見ればおわかりのように、「オルタナティブロック」の意味として使っている。

随所にあるダンサブル&ディスコライクな一面を見せてくれつつも、その合間合間から、理芽の快活で直情的な一面が吹き出すようなライブへ。そしてそれは強い高揚感となってあらわれていたように筆者は見た。

最後に、理芽の新しいビジュアルについても記しておこう。

ショートカットだった髪型を耳たぶあたりまでより短くしたことで、振り向いた際のうなじ・首元から横顔に至るまでの表情が、グッと大人びたように感じられる。ライブ後に公開されたビジュアルをみると特にその印象が強まり、まるで見返り美人のよう。

そこに後頭部からかなり長い襟足を伸ばし、2本にまとめているわけだが、スンとしたスマートな表情で大人びたクールさを漂わせながら、実際に口を開けば明るく陽気。対照的な二面性が浮かび上がってくる。

そういったビジュアルと性格だけではなく、直情的なロックとクールなR&B~シティポップ感、初日でも見せていたおどろおどろしい狂気さとキュート&ポップな一面、そういったコントラストをこの2日間のライブで理芽は見せてくれた。


●セットリスト
1. NEUROMANCE
2. ピロウトーク
3. クライベイビー
4. 胎児に月はキスをしない
5. ファンファーレ
6. ルフラン
7. インナアチャイルド
8. 生きているより楽しそう
9. 宿木
10. どくどく
11. いたいよ
12. 甘美な無法
13. さみしいひと
14. 食虫植物
15. ユーエンミー
16. えろいむ
17. 法螺話
18. 十九月
19. おしえてかみさま
20. フロム天国
21. ピルグリム
22. やさしくしないで

*アンコール
23. きみが大人になったんだ(新曲)
24. 百年
25. 狂えない


(TEXT by 草野虹、PHOTO by 日吉 JP 純平)

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